中川このみ。
成績優秀、運動神経抜群。美人な上に生徒会長と来たもんだから、まさに漫画のキャラクターのような女だ。
友達も多い方で、性格にも裏表がない。
強いて言うならその馬鹿正直さが問題だが、言葉で現すならまさに‘憧れの的’。
そんな彼女が俺―市川春(ハジメ)―と付き合い始めて、もうすぐ半年。
未だわからないのが学園のマドンナとも呼べる彼女とこんな平凡な俺が付き合っていることだが、一応向こうから告白されている。
自惚れてる訳ではないけど、どうやら俺もそこそこ‘イケメン’の部類に入るらしくて、このみ以外にも何人かの女子に告白された事は有る。
成績はそこそこ。運動は縄跳び以外なら出来るし、クラス委員長ぐらいならやった事は有る。
「お似合いだね」と言われる度に照れ隠しに笑ってみたりするのだが、その度にこうも思うのだ。
本当に俺とこのみは釣り合っているんだろうか?
イケメンと言っても中の上ぐらいの俺と、学園のマドンナ。格が違うのでは?

「でもわたしはハジメが好きだよ。うん。一番好き」

手をつないで帰る帰り道、彼女はそういって綺麗に笑う。
ポニーテールに束ねた髪が、歩く度に揺れている。
影に映るふたりの影。
まあ、好かれてるなら良いか。
なんて考えながら、帰りにふたりで近場のファミレスによって、デートの口約束をして、彼女を家に送って、自宅に帰宅した。
独り暮らしをしているから、家は散らかったままだ。
一度このみが家に来て、部屋を掃除してくれたことも合ったが、結構昔の事だから、もうすっかり汚れてしまった。
風呂を沸かすのが面倒で、シャワーだけ浴びて布団にもぐりこみ、休日の事を考える。
明日はこのみと映画に行って、ショッピングに行って、流れでどっちかの家に行って、それからは――…。
釣り合わないとかそんな事置いておいて、なんだかんだで俺もこのみが大好きだ。とかく彼女を愛しいと思う。この気持ちに偽りはない。
明日はどんな服を着ようとか、そんな事を考えているうちに、深い眠りに落ちて行った。


――――…   す               け て
―――… や            く   き           て      
――…    じ め    あ  い      し   て                      る     


「…はっ……!!」


不意に意識が戻り、飛び起きる。
…何か変な夢を見たような。
眼を擦りながら枕元の携帯を確認して、愕然となった。
点滅するディスプレイには無常な時の流れが書かれている。

――9:30。

「うっわ!完全に遅刻じゃねえか!!」
待ち合わせは10時。どう見つもっても遅刻だ。まさかこんな時に寝坊するなんて。
慌てて飛び起き、着替えをして、寝癖を直す作業に取り掛かった。

―悪い!寝坊した!ちょっと遅れるm(__)m―

このみに遅れる旨を伝え、慌てて支度をするものの、結局家を飛び出したのは10時30。
完全に失敗だ。早くしなければ映画の時間にさえ間に合わない。
返信を確認する間もなく、待ち合わせの公園まで全速力で走った。
滴る汗をぬぐう間も無く、到着した公園に足を踏み入れる、が。

「…あれ?」

待ち合わせ場所に、このみの姿は見当たらなかった。
思考をめぐらせ、昨日の彼女との会話を必死に思い出す。
――10時に、○○公園の時計台の下に集合。
間違いない。そう約束したはずだ。だが時計台の下にはこのみの姿どころか、人ひとりすらいない。
「…そうだ、メール」
不意に携帯の存在を思い出し、ポケットから携帯を取り出す。
待ち受けには受信メールの数が表示されている。――受信メール:3件。
フォルダを開き中を確認すると、3件共このみからのものだった。

一件目。
‘了解(^^)着いたらメールしてね!’
――これは俺が送ったメールへの返信だろう。時刻的にもそうだ。

二件目。
‘10時過ぎたぞー。(-"-)ぷんぷん!’
――なんともこのみらしいメールだ。苦笑した。

三件目。
‘先に映画館に行ってるね!現地集合ってことで’



…なるほど。だから此処には居ないのか。







「…え?」
一か所に集まる人だかり。
見ると、遠くに救急車や警察が見える。
…何か事件が合ったらしい。

まさか。そんな。ありえないだろ。
早まる心臓を抑えながら、人ごみに近づいた。
群衆をかき分け、何とか先頭に立つと、そこには――。


「…通り魔だって、怖いわねえ」
隣の叔母さんの話し声。
目前には、警察に手を引かれて歩いている男が居た。
…どうやらあれが犯人の様だ。好奇心でそれを見ようとする人々を、警察の人間が必死に押さえつけている。
つまりこの人だかりは犯人を見たい野次馬の集まりだったわけだ。
群がる輪から抜け、別の場所に視点をやると、遠くで一人の少女が泣いていた。
このみ――
…ではない。このみと同じ年ぐらいの、別の女の子だ。
その隣には警察が座り、何やら事情を聞いている。
人ごみを離れると、その話声がかすかに聞こえた。
悪いことだと思いながらその話を盗み聞く。
「…友達が…、…刺…れて……助けを……たら、あの男が……」
「…他……れた…は…?」
「……わかりません…。……」
――どうやら通り魔の被害者と待ち合わせをしていた女の子の様だ。一部始終を見ていたらしく、詳しく話を聞かされている。
パトカーの中でやればいいのにと思うのだが、どうやらパトカーは一台しか来ていないらしく、そしてその一台には犯人が乗せられている。救急車
ももう動き始めていた。
とにかく、被害者がこのみではない事には安心した。
では彼女は何処に居るのだろう。もしかして事件が有って別の場所に逃げたのだろうか?
ここでやっと携帯を確認する事に思い立ち、閉じたままの携帯を開いた。
「…メール8件?」
まさか全部このみか?
とにかくすべてを開いてみると、3通はただのいたずらメールだった。
残りの5通はこのみからだ。
古いメールから順番に読んでいく。

一件目。
‘了解(^^)着いたらメールしてね!’
――これは俺が送ったメールへの返信だろう。時刻的にもそうだ。

二件目。
‘10時過ぎたぞー。(-"-)ぷんぷん!’
――なんともこのみらしいメールだ。だが胸騒ぎがするのはなぜだろう。

三件目。
‘助けてハジメ’
――やはり。彼女も通り魔の犯行を見ていたのか?
もしかしてまだどこかに隠れているのだろうか。

四件目。
‘怖いよ、早く来て’
――三件目の直ぐ後に来ている。着信も二件程入っていた。無論すべてこのみからだ。

五通目。
‘’
――空メール?

「…このみ」
リダイヤルを押そうとして、伝言が入っていることに気付いた。
何処に居るか分かるかもしれないと、その伝言を再生する。

『もしもし、ばいばい』

――伝言は、たったそれだけだった。

「…何だこりゃ?」
と、言わざる終えない。
この留守電が入れられた時間は、10:03。このみが二件目のメールを送ってすぐだ。
やはりこのみに電話を掛けてみるか…。
そう思い携帯を鳴らそうとした、途端。


「――ハジメ!」

背後で声が聞こえた。

「…このみ!」

無事だったんだな。心配したんだぞ。大丈夫か?
掛ける二言目を探しながら、振り返る。
…このみは居なかった。
代わりに、風に吹かれ公園の草木が靡いている。



「…このみ…?」

何かに導かれるように、草木の中へ。
公園の林は以外と深い。
夏が近づいている為、伸び始めた草木をかき分けながら、何故か、奥へ。

不意に鼻を異臭が掠めた。
「……おい、このみ?」
どくんどくん
忘れていた心音が、再びうるさく鳴り出す。
伸びきった草木をかき分け先に進むのは簡単だ。だが何故か、それをしてはいけない気がした。
見てはいけない気がしたのだ。
その場から一歩も動けずに居ると、不意に足元に光る何かを見るける。
拾い上げ確認すると、切れたストラップの紐だった。
何がぶら下がっていたかはわからないが、この紐の色に、見覚えがある。
――中川このみの携帯に、同じストラップが付いていた、気がする。

「…はあ、はあ……」
落ち着け、そんな筈はない。
犯人はもう捕まってるんだ。それにこのみはもう何通もメールを送ってくれている。
五件目のメールは―空メールだったが―犯人が逮捕された後に送られているメールだ。そんな筈はない。ある訳がない。

このみが刺された、はずがない。

だからのこの草木の先には、きっと何もない。
きっとこのみは今頃、警察に保護されて別の場所に居るのだ。
キーホルダーは隠れている間に切れてしまったのだろう。そうだそうに決まっているそうなんだろうきっといや絶対そうだ
意を決し、草木の奥へ身を乗り出した。


世界が暗転した。

「う…あ、あああああああ!!!!」

反射的に身をひるがえし、その場を逃げ出した。
あれは、なんだ
草木に飛び散った赤い液体
携帯を濡らす赤赤赤
飛び散った肉片
目を閉じられた 紅い世界の   俺の彼女







悲鳴を聞いた警察官が駆け寄ってきた。
説明する事も出来ず悲鳴をこぼすだけの俺に代わり、奥を調べた警察官に、同じく零れる金切声。

――中川このみは惨殺されていた。
喉を切られ、辺りに血液を飛び散らせていた彼女の死亡時刻は、10:03と断定された。
捕まった犯人も殺したのは2人だと断定しており、一人は事情聴取を受けていた少女の友達。そしてもう一人は、中川このみ。
事件はすぐにメディアを通して知れ渡り、犯人は有罪判決を受けた。


なにも信じられなかった。
ありえない。だってこのみからは、何度もメールが来ていたんだ。
着信だって入っていたのに。
まして留守電なんて、死んだ時刻ぴったりだ。ありえないありえないありえない。
ぐるぐるぐらぐら
涙の所為で腫れた目で、携帯を確認すると。3件のいたずらメールがまた来ていた。



――――たSいりりすAおとまNNNhかいるるAいOけいて

―――はYあやdいえMkooえりdすAAうらRくurえKどいきあああああAAAえEいrsいおて

――はPいおっるvsじrrめかえrいfじょsああdしいりゅ8いsいdsじしるGえuいてfすひおsd@prpうdんp@sdサイウcbさひおさる 






‘もしもし、ばいばい’










暗号解読(反転)
最初の方にあった
―――― …
――― …
―― …
これを反転。

何がしたかったかわからなくなった。当初はもっと違うオチだったんだけどなあ。
気が向いたらオチ別verも書きます。ダークなのに変わりはないけど。