旋風が、横を通り過ぎる。

「ファグト・ウィンディ――!!」

放った魔術は魔物には当たらず、空を切るだけだった。
小さく舌打ちをする。走りながら魔術を放つのでは、狙いが定まらない。

不意に魔物の動きが鈍くなったのが分かった。
――そして直ぐに気づく。

足を怪我しているようだ。
外したと思っていた魔術は微かに、だが致命的な場所に傷を付けていたのだ。

怯んでいる魔物に背後から、影が剣を振り下ろした。



「……討伐数は、これで10体」

「じゃあ、仕事は終わりですね」

少女の呟きに剣を振り下ろした彼が、にこりと笑う。
彼は剣を鞘に締まってから疲れた表情の彼女に、手を伸ばした。 



「帰りましょう?――シュリさん」
「……うんっ」

彼――クライム・ファグトの言葉に、
シュリ・エイゼントは大きく頷き、彼の傍に走り寄った。








――時は西暦10000万年。
10年前に引き起こされた事件…イティオール機関壊滅事件は、未だ世間を嘆かせている。
壊滅事件の主犯はフォールド機関。悪事を働く機関だ。

フォールド機関は、イティオール機関の宝庫に収められている‘伝説の剣’を盗み、
顔を見られた機関の人間を、残虐に切り殺した。
残虐な事件の生き残りは――2人。
しかし2人とも、消息は分かっていない。


そんな世界。



――10年前の事件から、1年。
フィリティア機関の勢力だけでは、フォールド機関の圧力に対抗できず、
フィリティア機関は、ある‘称号’を発布する事になった。

それがヴェネヴァル。
――現在シュリの隣を歩く彼、クライムの得ている称号だ。
ヴェネヴァルはフォールド機関の捕獲の他、街人からの依頼を受け、それを行う仕事も持っている。
シュリはそんなヴェネヴァルの仕事の手伝いをしていた。
旅をしながらの仕事なので、苦痛な事は沢山あるが。

後悔はしていない。



――理由は1つ。



(あの人と、再会するために)

あの人は私が、探し出してみせる。





シュリは首に巻きつけたペンダントを、大事そうに、しっかりと握り締めた――。




*Prologue,空へ架ける運命
(あの日の約束、絶対に忘れないよ)





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