セルシアは直ぐ様ノエル達に向かって戦輪を投げつけ、その隙に此方まで走り寄って来た。
随分走って此処まで来たのか彼は大分息切れしている。声を掛けようとした所で、セルシアが少しだけ笑った。
「話はノエル達を追っ払ってから。で」
…確かにそっちの方が良さそうだ。了解してもう一度ノエルに向かい合った。


*NO,77...そして胡蝶は乱舞する*


セルシアの投げた戦輪を寸ででかわしたノエルとキースが、顔を見合わせて眉間に皺を寄せる。彼が此処に来るのは計算外だったのだろう。
それでも口元を釣り上げ此方に蹴りかかろうとした男を――ノエルが止めた。
「ネメシスが全部揃ってる状態だと不利だし一度退くわよ」
…そうか、ノエルが顔を顰めたのはそれが原因だったのか。
青のネメシスは自分達が持ってて、緑のネメシスと白のネメシスはノエル達が持ってるけど残りの2つ――赤のネメシスと黒のネメシスはセルシア
が持っているのだ。その2つのネメシスを持っている彼が此処に来たって事は、この場に全てのネメシスが揃った事になる。
舌打ちしたキースが鎖鎌をしまって渋々ノエルに続いて歩き出した。
「待ちなさい!!」
追い掛け様としたが足が痛んで膝に手を付いてしまう。忘れてたけど足も怪我したっけ。
ノエルが振り返り妖しく笑った。
「返して欲しければ追いかけて来なさいよ。――BLACK SHINE本部まで」
彼女はそう言って風に解ける様に消えていく。キースもまたノエルに続いてその場から消えていった。


…結局緑のネメシスは取り返せなかった。けど5つのネメシスの内3つは此方が所持しているのだ。状況的には一応こっちが有利である。
とりあえず疲れた。鞘に剣を戻して地面に腰を下ろす。
マロンが怪我の酷い人から回復に回ってくれてるので、レインとリネはもう元気そうだ。
「…随分遅かったのね、何してたのよ?」
マロンの回復を受けるまでは暇なのでセルシアに話しかけた。イヴの言葉に戦輪を閉まった彼が儚く笑う。
「……リトの亡骸を供養してた。墓にちゃんと埋めて…、弔ってきたから」
…ああ、そういう事か。それでこれだけ時間が掛かったのか。
きっと色々な気持ちが頭の中を駆け巡っていたのだろう。懺悔、感謝、弔い…。それは数え切れない程の‘想い’。

「…ごめんな、時間掛かって」
「良いわよ。…帰ってきてくれた。それだけで十分」
正直どこかで想ってた。レインの言う通り、もう帰ってきてくれない気がしてた。
けれど彼は彼なりに考えて――此処まで追いかけてきてくれたんだ。…それだけで十分。
そんな中でセルシアの背中にいきなり彼女が飛び掛かる。リネが肩を震わせてセルシアの背中にしがみ付いていた。
「…リネ」
「……おかえり」
彼が名前を呼ぶと、肩を震わせたまま彼女が声を投げる。…泣いているのだろうか。きっと帰ってきてくれた事が本気で嬉しいんだろう。
リネの言葉にセルシアが振り返り、リネの頭を優しく撫でる。
「ありがとう。…ただいま」
彼女の頭を愛撫しながらセルシアが微笑む。そんな彼を見てリネがまた涙を零した。きっと嬉し涙だ。
釣られて既に動ける状態のレインとアシュリーが傍に寄ってきた。…ロアはまだマロンの手当てを受けている。
「よく帰ってきな、お前」
皮肉なのか何なのかよく分からないけどレインがそう言って笑った。多分レインなりに歓迎しているとは思うけど…もうちょっと言葉を選べないの
か、こいつは。
「…俺にはまだやる事が残ってるから」
そんな皮肉に気付いて無いのか、セルシアがそう言って同様に笑う。こいつも相当性格良いよな。レインも少しはセルシアを見習うべきだ。
「もう平気なの?」
「ああ、大丈夫。ありがとう」
隣に居るアシュリーからの問いにセルシアは相変わらずの笑顔を浮かべる。唯その笑顔が少し疲れている様に見えた。やっぱりまだ色々と辛い
のだろう。…暫くはそっとして置いて上げるのが良いかも知れない。
やがて回復の済んだロアとマロンが此方に寄って来た。
「待たせてごめんね。…大丈夫?」
彼女がそう言って肩口の傷と足の怪我に回復術を当て始める。
暫く待ってる中でロアとセルシアが色々会話していた。一番歳が近いのがロアだから一番話しやすいのかもしれない。…リネには心配掛けさせた
く無いだろうから、あんまり大事な事とかは言いそうに無いし。
マロンからの回復が終わってからその場を立ち上がる。傷口はすっかり治っていた。
「ありがとう、マロン」
微笑んで、一度大きく伸びをする。
改めて気持ちを入れ替えたところでその場を立ち上がった。


「BLACK SHINE本部…。何処にあるか分かる?」
6人の顔を1人1人確認するが、6人とも首を横に振ったりして否定する。
…BLACK SHINE本部の場所なんて聞いた事も無い。一体何処に有るんだろう…何処かにある事は確かだけれど。
「リーダーなら知ってるかもしれない」
そんな中リネが声を上げた。――SAINT ARTSリーダー…。確かにレグロスとネオンなら何か知ってる気もする。
「…本部に戻れば、何か情報が残ってるかもしれない」
セルシアもまた声を上げる。…それはつまりVONOS DISE本部に向かうって事か?けれど辛くないんだろうか。リーダーが死んでまだそんなに日は
立ってない。きっと生き残ったunionの人間も混乱している筈だ。
「大丈夫なの?」
「…逃げてるばかりじゃ何も解決しないから」
問い掛けるとセルシアがそう言って笑う。…彼も大分決意を固めたのだろうか。その瞳は真っ直ぐ前を見ていた。
「とりあえずSAINT ARTSに行ってからVONOS DISE本部か?」
「…そうなるわね」
次の目的は決まった。BLACK SHINE本部を探す事。そして残り2つのネメシスを絶対に取り返す。
…最終決戦はきっともう近い。改めて決意を入れ替え、踵を返し来た道を歩き始めた。




* * *





――それは‘美徳’という名の‘裏切り’の破調。


「…本気なの?」
‘彼女’の問いに‘少女’が無邪気に笑った。その笑顔には黒点の笑みが見え隠れしている。
「本気だよ。‘あの子’にはちょっとだけ協力してもらおうと思って」
「‘アイツ’の監視の事でしょ?それくらい私だって分かるけど…大丈夫なの?」
問い掛けると相変わらず彼女は楽しそうな笑顔を浮かべたまま答える。
「うん、大丈夫だよ。


だってあの子が裏切れる筈、無いんだから」


これは、そう。全ての始まりに過ぎない宴。
‘あの子’と‘アイツ。’―――‘償う者’と‘憎む者’のレクイエム。


頭を抱えて溜息を吐くノエルの隣で、相変わらずリコリスが無邪気な笑顔を浮かべていた。










--It leads to Chapter X!!--



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