はっきり言ってまたあの砂漠を越えるのかと思うと気が重くて仕方ないが、進まない限り道は拓けない。
神殿の入り口付近にあるオアシスで水をきちんと補給してから、炎天下の砂漠を7人で歩き出した。
相変わらずリネが我侭を言ったり誰かの水が足りなくなったりでとんだ道のりだったが、全ての水が切れる前には何とか砂漠を抜けSAINT ARTS
本部まで到着する。道的に近いのはこっちなので先にSAINT ARTSに寄っておくべきだろう。というか喉渇いた。水でも良いから貰いたい。
6人の意見も一致したのでリネを先頭に本部内に足を踏み入れた。


*NO,78...星屑の光*


「リーダーなら多分私室に居ると思う」
本部に入るがリネがそう言って長い廊下を歩き出す。内部の事は所属しているリネの方が詳しいに決まってるので彼女の後ろに着いて行った。
彼女は一番奥に合った階段を上がり、傍に合った部屋の扉を軽く叩く。
「失礼します」
扉に向かって軽く頭を下げた彼女が、戸を開いて中を見渡した。
「リネじゃないか、久しぶりだね。緑のネメシスは見つかったかい?」
部屋に入るがレグロスが席を立って迎えてくれた。傍にはネオンも居る。
軽く会釈をしてから、全員が部屋に入った事を確認しているとリネが口を開いた。
「ネメシス自体は見つかったけど…BLACK SHINEに捕られました。だからBLACK SHINE本部まで追いかけたいんですけど」
「…場所って分からない?」
肝心な場所を要約して彼等に問い掛ける。
彼女の言葉にレグロスとネオンが顔を見合わせて―――少しだけ小首を傾げた。
「残念だけど…本部の場所は聞いたことも無いよ。
見たことのある人も居ないし……きっと地図に乗ってない場所か、或いは地下…。とにかく人目につかない場所に在るんだと思うよ」
「それも誰も見つけれない様な場所に、ね」
ネオンとレグロスの言葉に6人で顔を見合わせて小さく唸る。…SAINT ARTSに何も情報が無いんじゃ情報の八方塞はほぼ確実だ。何せSAINT 
ARTSは最大規模の情報union。此処以外の情報unionが有力な情報を持ってるなんて考えられない。
「…地図に載ってない場所……ねえ」
そんなの探しようが無いじゃないか。地図に載ってない場所なんてどうやって探すんだ。
或いは地下って…そっちも余計に探しようが無い。いちいち世界中の土を掘り返してたら何年の月日が必要なんだ。埒が明かないにも程がある。
「てことは自力で探すの?でもすごーい時間掛かると思うよ?」
レインが不満そうな声を上げる。それを言いたいのはこっちだっつーの。軽く男を睨むと彼は苦笑しつつ一歩後ろに下がった。
「…グランドパレーはどうだ?地形がいまいち分からない場所だし」
セルシアが声を上げる。グランドパレー諸島か…考えられない事も無いか?そう思ったがリネが首を横に振った。
「それは無い。もしグランドパレーに基地を作ったならSAINT ARTSの人間の誰かが気付いてる筈だから」
…そっか。グランドパレーはSAINT ARTSが既に調べたんだった。
それに実際自分達も足を踏み入れたが、あそこはウルフドールの里が隠してるぐらいで他に何かあるという気配は無かった筈だ。じゃあグランドパ
レーという確率も極端に低いか…。

……そういえばBLACK SHINEって今まで散々悪さとか色々してるのに本部だけは見つかった事が無い。
これはどういう事なんだろう?分かりにくい場所に在るのは確かだけど…誰も見つけた事が無いってそれは余りにも可笑しくないか?
いや、或いは基地を見つけられたらその見つけた人間を必ず殺しているのか…。
何にせよBLACK SHINE本部への手がかりは一切無しだ。SAINT ARTSも知らないとなると情報はかなり絶望的である。

「…cross*unionなら何か知ってるんじゃないか?」
静寂の中、思い切り顔を上げたロアが声を掛けてきた。
「……在りえそう」
一番納得した。そういえばcross*unionてBLACK SHINEと繋がっているという疑惑が合ったっけ。
cross*unionが本部を知ってる確率はかなり高いけど……。
――もしcross*unionが本当に白だったらかなり失礼だし、黒だったとしても命の保障が無い気もする。
…でも他に情報が無い限り其処に行くしかない、か。
「待って。本部に行く前にVONOS DISE本部に行きたい。情報があるかも知れないから」
話がまとまり掛けた所でセルシアが声をあげた。…そうだ、セルシア最初にそう言ってたっけ。
道のり的にVONOS DISE本部付近は確実に通るし、別に寄っても問題は無いだろう。
「あたしは良いわよ。皆は?」
5人に声を掛けると最初にマロンとアシュリーが頷いて笑う。次いでリネとロアが少しだけ頷いた。
レインが何か悩んだ顔をしてるけど…まあどの道向かう事になるからほっといても良いかな。
「良いわよね?レイン」
念の為問い掛けると話を聞いてなかっただけらしくレインが体を一瞬痙攣させて大きく頷く。…話ぐらいちゃんと聞いてなさいよ。ため息を吐いてセ
ルシアと向き合った。
「良いわよ。じゃあVONOS DISEに寄ってからcross*unionね」
「……ありがとう」
安堵の顔を浮かべた彼がはにかんだ笑顔を浮かべる。
…気のせいじゃない、か。
やっぱりリトとの一件が合ってからセルシアはちょっと俯きがちだ。笑顔も何処か無理やりっぽいし……。
本人は気にしてないって言ってたけどやっぱりまだリトの事引き摺ってるのだろう。それでも戻ってきてくれた事には本当に感謝した。
「平気?疲れてるみたいだけど…」
隣に居たマロンが声を掛ける。うん、今のセルシア正直滅茶苦茶疲れてる気がする。
「……平気」
そう言ってもう一度セルシアが笑うけどやっぱり笑顔がぎこちなかった。…今はそっとしておいて上げるしか無いかもしれない。何時か彼が彼自身
の闇に勝ってくれるのを、あたし達は信じる事ぐらいしか出来ないと思うから。
何時の間にか床に座っていたレインが立ち上がり思い切り伸びをする。
「んじゃあそういう事で話はまとまったのね。今すぐ行くの?」
…こいつは話を聞いてたのか?セルシアが落ち込んでるって言うのに、何処までも暢気というかマイペースというか…ある意味尊敬するけど、空気
読まないにも程があり過ぎる。
レグロスとネオンの傍に居たリネがその場を離れ、レインの後ろに立ったかと思うと次の瞬間には彼を思い切り殴っていた。
懇親の拳を食らったレインが再びその場に座って殴られた場所を押さえ悶絶する。…自業自得だ。呆れて溜息が漏れた。
「でも本当に平気?一晩休んでからVONOS DISEに向かっても大丈夫よ?」
レインを殴った時とは一変し、心配そうな顔でリネがセルシアを見上げる。…最近はリネの二重人格も本当に激しくなって来たな。そしてツンデレ率
も上がって来た気がする。セルシアにはあの一件以来完璧デレだけど。
「……そう、しようかな。ごめん、ちょっと休みたい」
「部屋なら空いてるよ。2階の突き当たりの部屋が空いてるから好きに使って欲しい」
セルシアの言葉にレグロスが笑って対応した。良かった、部屋空いてるんだ。じゃあお言葉に甘えてあたし達も借りちゃおう。
「あたしは自分の部屋持ってるから…其処で寝る」
リネがそう言って先に部屋を飛び出していく。まあ彼女は此処のunion所属だし、個室を持ってても可笑しくは無いな。リネも使い慣れてる部屋の
方が居心地も良いだろうし特に止めはしなかった。
「幾つぐらい空いてるんだ?」
部屋の数の話だと思う。ロアが傍に居たネオンに問い掛ける。
「2階は殆ど空き部屋だから、此処に居る全員が寝れる数は空いてるわよ」
丁重に答えを出してくれたので頭を下げてお礼を示した。
砂漠を越えてきたから正直自分も疲れた。リネももう自室に向かっちゃったし、今日は部屋を借りておとなしく寝よう。うん。

「あたしももう寝に行くわ。疲れたし」
「じゃあ俺も先に失礼するよ」
声を投げるとセルシアもそう言って笑った。彼が多分一番疲れてるだろうし…早く寝た方が良いだろう。一日でも早く元気になって欲しいし。
軽くレグロスとネオンに頭を下げ、セルシアと一緒に部屋を出た。
廊下から突き当たりの部屋2つを選び、2人で右と左を選んでから右の部屋に入る。
部屋に入ってから真っ先に目に入ったベッドに腰を下ろした。
ところでリネは早々に部屋を出て行ったけど何かやる事でも合ったのだろうか。
彼女の個室の場所を聞いて置けば良かったとちょっと後悔しつつ、寝転がって瞼を閉じた。


* * *


「…BLACK SHINEが最近起こした事件とか何か分かる?」
セルシアとイヴの2人が部屋を出て直ぐ、胡坐を掻いて床に座っているレインが声を上げる。
……ていうかちょっとは敬語使えよ。大型unionのリーダーと副リーダーだぞ??
リネが居たら絶対に殴られていただろうレインを眺めつつそう思ってるとレグロスが声を上げた。

「…最近起こした事件はやっぱりVONOS DISEの事、かな。そこから先は聞いてないね」
悩んだ顔を見せつつレグロスが答える。
「そんな事聞いてどうするんだよ」
レインに問い掛けると彼は横目で2人の出て行った扉を見つつ言った。
「や…。BLACK SHINEって最近表向けの事件はあんまり起こさないじゃない?俺達ばっかり追い回してくるし」
「そりゃそうだろ。向こうは俺達のネメシスを狙ってる訳だし」
回答するとレインが口を尖らせる。いかにも不満のある顔だ。…最近レインも思ってる事が顔に出て来るタイプになってきたな。
「でもさぁ、それにしては俺達の行動が向こうに筒抜け過ぎだと思わない??」
「……それは私もちょっと思ってたよ」
マロンが賛成の声を上げる。…まあ言われて見ればそうだ。
向こうはこっちの行動を知り過ぎている。それこそこの7人しか見ていない様な事まで……。


「…内通者でも居るんじゃない?このパーティー」
アシュリーが溜息を吐きつつ声を出す。…流石にそれは無いだろう。
イヴとマロンは元々正義感が強いから間違っても在りえないし、リネとセルシアは一時このパーティーを抜けていたから監視役というのも在りえな
い。アシュリーとレインは確かに多少不思議な所は在るけど何だかんだで役に立ってくれてるし俺達の事ちゃんと考えてくれてる。
…だからこの中で内通者は在りえないだろ。というかあんまり考えたくない。それってつまり‘裏切り‘って事だ。
「誰かが私達の事追い掛けて見張ってるだけなんじゃないかなぁ?」
マロンが声を上げる。
「多分そうだろな」
賛成するがアシュリーが小首をかしげた。
「…本当に?」
「……そんな事言ってたら俺達全員の事疑わないと行けないぞ?」
「…まあ、それもそうね」
アシュリーが表情を和らげて頷く。彼女も本気で言ってた訳では無いようだ。
きっと向こうが動きを知ってるのは誰かに見張られてたか、偶然だろ。内通者というのはあんまり考えない様にしよう。此処まで一緒に着いて来て
くれた彼等の事は疑いたくない。
「ま。内通者は考え過ぎだろ。俺もそろそろ寝ようかなー」
レインがその場を立ち上がり、レグロスとネオンに軽く頭を下げてから部屋を出て行った。
3人で顔を見合わせ、レインより少し遅れて会釈をしてから部屋を出る。レインの姿は既に無かった。行動早すぎだろアイツ。
溜息を吐きつつ空いてる部屋を選んで3人で中に入る。
多分イヴとセルシアはもう寝てるだろうから俺達も寝よう。明日はVONOS DISEに行って、それから船でcross*unionまで戻る事になる。
どの道cross*unionとの衝突も避けられなかったのだ。それなら進むしかない。
近くの椅子に座って拳を握り締めた。








* * *










「××は多分、まだ――――と思う」

「そう。……あの約束、忘れてないわよね?」

「……‘**には手を出さない。その代わり××は殺す’…て事?」

「ちゃんと分かってるわよね。なら良いわよ。――精々働いてね?‘**’の為に」

「……言われなくたってそうする――!!」


まだ水の入ったグラスを思い切り投げ付けた。粉々に砕けたグラスの破片が床に崩れ落ちる。
――しかし、グラスを投げた先に‘アイツ‘の姿はもう無かった。

怒りを静めるために、腕を強く握り締める。
…言われなくたってそうしてやる。誰かを犠牲にしないと守れないんだ。‘**’を守る為には、こうするしか無いんだ。
何度も自分に言い聞かせた。けれど体の震えはとまらなかった。


**を救うこと。それはつまり××を見捨てるという事。



「……ごめ、ん」


届かない懺悔を、何度も口に出し続けた。ごめんなさいごめんなさい…。**を助ける為何です。だからどうか、犠牲になって。
そんな理不尽な理由が許される筈も無い。
けれど――――‘**’だけは、**の笑顔だけは絶対に守るって決めたから……。








……――それは、全ての終焉となる破戒への秒読み。










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