翌日、レグロスとネオンにお礼を言ってからVONOS DISE本部に向け歩き出した。
SAINT ARTSとVONOS DISEは元々友好的なunionだったみたいだし場所もかなり近いのが幸いだ。
陽射しの中を歩き続ける事30分、少し疲れ始めた頃に漸くVONOS DISE本部に到着する。
一歩前に出たセルシアが静かに跡地の扉を開いた。


*NO,79...示唆情報*


――機関は完全な静寂に包まれている。
あれ以来死体の供養等は誰かが行ったみたいだが、まだ所々に血や汚物が残っていた。掃除はしてないらしい。刺激臭が鼻を刺す。
「…出張に行ってた奴等とかはまだ生きてるんでしょ?今何処に?」
問い掛けると、入り口を歩き出した彼が振り返る事無く答えた。
「半分は他のunionに移籍したよ。…止める権利は無いから止めなかった。
もう半分は一応まだVONOS DISE所属って事になってるけど…休業みたいな感じになってるのが現状かな。
俺が如何にかしないと行けないのは分かってるんだけど」
そういって彼は口ごもってしまう。
…半分は移籍、か。そりゃあこんな大事件が合った以上、VONOS DISEの再建設はかなり難しいだろう。
それに副リーダーであるセルシアは生きてるけど、核となるリーダーは死んでしまった。――事情が如何であれ出張に行っていた第三者の人間は
これを不愉快に思うに違いない。セルシアは機関内に居た。リーダーの傍に居た筈なのに、何でリーダーを守らなかったんだ。って……。
そういう意味でもセルシアはやっぱり色々な物を背負っているのだろう。それは憎悪や憎しみと言った醜悪の感情。
前を歩く彼の背中を眺める。平常そうに振舞ってるけど…内心はきっと張り裂けそうな思いで一杯の筈だ。それでも彼はあたし達の傍に居てくれ
て、ずっとリネの事を守ってる。……正直尊敬物だ。倒れても可笑しくない位なのに、何でそんなにも彼は強いんだろう。



静まり返った本部を、無言で歩き続ける。
何処へ行っても血の臭いが残っていた。濃度の濃い鉄の臭いに嗅覚もその内慣れて来てしまう。
そんな中でセルシアが立ち止まったのは前にリネがリーダーの私室と言っていた場所だった。やっぱり情報は此処に保管されているのだろう。
ドアノブに手を掛けた彼が、ゆっくりと扉を開ける。

…此処が一番酷い臭いだ。血の臭いが特に充満している。思わず口元を押さえてしまった。
6人がたじろぎしてる中でセルシアだけが部屋の中に無言で入っていく。そして机の上に無造作に放置されているノートパソコンの電源を入れ、ポ
ケットから鍵を出し、机の引き出しを開けて中から何枚かのディスクを取り出した。恐らくその中に大事な情報も何もかもが入っているのだろう。
無言でパソコンの操作を始める彼に、少しずつ近付く。…床にはリーダーの血痕が残っていた。
彼の指は恐ろしい程早く動いている。作業に慣れているのか、操作に迷いが無い。
パスワード入力画面になっても彼は2秒か3秒考えて直ぐにキーを打ち込んだ。よく分かるな。…関心している内に、どんどんディスクのパスワード
が解除されて行く。
恐らく最後のパスワードであろう入力画面を入れた時―――セルシアの顔が微かに歪んだ。眉間に皺が寄っている。…何か合ったのか??
「どうかしたの?」
問い掛けるとセルシアが繭を釣り上げたまま呟いた。
「データが破壊されてる……?」
独り事の様に呟いた彼が、そのディスクを取り出して別のディスクを挿入する。
同じように手順を踏んでパスワードを何回か入力したが――行き着く画面は‘ERROR’だった。
小さく舌打ちしたセルシアがどんどんディスクを入れ替えて同じ手順を踏んでいく。見守るしか出来なかったが何が起きているかは何となく分かっ
た。…データが全て壊されているのだ。リーダーが危険を悟って壊したのか、リコリス達が壊したのか、或いは――――。


―――誰かが此処に来た??





「…畜生!」
最後のディスクを確認し終えたセルシアが悔しそうに声を荒げた。…結局データは何も残って無かったらしい。
「他のディスクは?」
引き出しの中を確認しながらレインが問い掛ける。確かにまだ色の違うディスクが残っていた。こっちはデータが残ってるんじゃ?
そう思ったがセルシアが首を横に振る。拳を握りながら彼が答えた。
「重要な情報は全部この色のディスクに保存されてるんだ。その辺のディスクは精々調査結果とかそういうのしか入ってない」
彼はそう言って再びパソコンの画面を見つめる。
…何回見ても画面は‘ERROR’止まりだ。とても内容が残ってるとは思えない。

「…誰かが、意図的に壊しに来た?」
「……そういう事だと思う、けど…何でっ?!ディスクには鍵が掛けられてるし、第一保管場所も鍵が……!!」
机を叩いた彼がもう一度声を荒げた。彼としては死ぬほど悔しいに違いない。重要なデータを全て消されているのだ。何者かの手によって。
一番安置な考え方はBLACK SHINEが壊したっていう考え方だが…でもどうやってディスクのパスワードを知ったんだ?知っているのはリーダーとセ
ルシアぐらいだった筈なのに。それにディスクの保管されている場所にも鍵がしっかり掛かっていた。
壊された形跡すら無かったという事は内部班…?でもセルシアじゃないとなると誰が?何の為に??

「…知られては行けない情報が入ってたから、内部班の誰かが消した。て事じゃない?」
アシュリーが淡々と言葉を述べる。…有り得ない事は無いが誰がデータを破損させたんだ?パスワードはセルシアかリーダーしか知らない。そし
て保管されている鍵も2人の内のどちらかしか持って居なかった筈…。
例え死んだリーダーから引き出しの鍵を回収してディスクを取れたとしてもデータを消すのにはパスワードを解いていく必要が有る。
つまりデータを消した人間は――パスワードを知っていたという事になるのだ。
それなら一番疑わしいのはセルシアだが…彼の自作自演?でもそれは無い気がする。第一データを消したかったのならわざわざあたし達全員を
連れて此処まで来る必要が無い。昨日SAINA ARTSで一夜休んでいる間に独りで此処に来てデータを消せば良いのだ。
って事はセルシアじゃない。セルシアじゃないなら――内部でセルシアと最も親しかった人間か?

「パスワードが誰かに漏れたとかは無いの?」
問い掛けるとセルシアが首を横に振る。その確率は無いらしい。
「誰かにパスワード教えちゃったとかは?」
レインの問い掛けにセルシアが強く首を左右に振った。それも無い。となるとますます謎だ。誰がデータを消したんだ?




「……此処で悩んでたってしょうがないわよ。一度此処出ましょ。
セルシア、パソコンとディスクって持ち運び出来るわよね?修復出来るかもしれないから貸して」
静寂の中でリネが声を上げる。…確かに彼女の言う通りだ。データが無い以上此処にこれ以上居ても意味は無いだろう。
頷いたセルシアがパソコンの電源を消し、折りたたんでからリネにディスクと共に手渡す。それを受け取ったリネがディスクだけをポーチに入れて踵
を返した。
最初に歩き出したリネを追いかけて自分達も歩き出す。セルシアがリネの隣に並んでディスクの事とかを色々相談していた。
それにしたって本当に謎だ。ディスクを破損させたのは一体誰なんだ…?
一番疑わしいのはセルシア。でも彼じゃないと直感が訴えてる。
同じくらい疑わしいのはBLACK SHINEだけど、奴等がパスワードを知っている筈が無い。



…胸騒ぎがした。
よく分からないけれど……、どうしてこんなに気持ちがモヤモヤするんだ??
何か見落としている。そんな気がする……。




「イヴ?」
マロンに呼ばれ、我に返る。何時の間にか歩みを止めてしまっていた。
…あの胸騒ぎは、きっと気の所為よね。というか気の所為だと信じたい。
「何でもない。ごめん」
少しだけ笑って、マロンと一緒にセルシアとリネを追い掛けた。










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