マロン達が起きて来た頃にはセルシアとリネが普通に会話して笑い合ってた。そんな姿を見てほっとする。良かった、仲直り出来たんだ。
全員起きたし、2人も元気になった所で改めて森の中を歩き出す。
今は廃墟となった全ての‘はじまりの場所’――グローバルグレイスへ、向かう為。


*NO,71...グローバルグレイス*


「何時の間に仲直りしたんだ?あの2人」
先頭に立って森を歩く中、隣にやってきたロアが声を掛けてきた。彼の目線はややセルシアとリネを見ている。
まあ驚くのも無理はない。2人が仲直りした頃アシュリーとマロン、ロアは寝ていた訳だし。
あれだけ喧嘩してたのに起きたら仲直りしてるんだもんな。そりゃあ不気味だわ。

「あんたとアシュリーとマロンが寝てる間に、全部片付いた」
「…起きたなら起こせよ」
苦笑混じりに彼が声を上げる。後ろに居るマロンとアシュリーも大きく頷いた。
とは言われてもあたしだってレインの叫び声(と言うか怒鳴り声)で起きた訳だし…有る意味起こされた状態だ。そんな状態なのにロア達を起こす
なんて頭が回る訳が無い。
「まーまー、とりあえず仲直りしたんだから良いんじゃない?」
後ろに居たレインが無理矢理話に絡んできた。何処までも鬱陶しい。軽く足蹴りしてレインを追っ払う。
にしてもこいつ、最近思うんだけど裏表激しいよな。会った頃は馬鹿以外の何者でも無いと思ってたけど、一緒に居る時間が長くなって来ると段々
レインも本音っつーか、黒い部分が見え隠れして来た。最近のコイツ割とまともな事が多かったし。
思うんだけどレインは本当に真面目な時はかなり良い性格だと思う。ずっとその性格で居てくれれば良いのに少しでも空間が和むとこの状態だも
んな。溜息を吐いた。

そんな事をしている間に――視界が拓いて森を出た。
目の前に広がるのは、9年前の惨劇の場所。

「…此処がグローバルグレイスで、間違いないのよね?」
「……間違ってない。会ってるよ」
セルシアが声を返してきた。…彼の証言は絶対だと思うから、間違いない。
とうとう着いた。はじまりの廃墟へ。

足を踏み入れると、最近雨が振ったのか泥がぬかるんでいる。瓦礫の上から水が落ちて来た。
「…確認したい事、有るのよね?」
「……先に行っていいのか?」
セルシアに問い掛けると彼が逆に問い掛けてくる。
…まあ目的が決まってる方から終わらせた方が良いだろうし、セルシアの‘確認したい事’ってのも気になる。だから頷いた。
内部では彼が先頭に立って廃墟の街の徘徊を始める。唯闇雲に歩き回ってるんじゃなくて、ちゃんと目的地が有るみたいだ。その足は迷う事無く
一つの場所を目指していた。――何処に向かうつもり何だろう。
暫く廃墟の街並みを歩き続けると、やがて一つの廃墟の家で彼の足が止まる。――もしかして、此処。


「…俺とリト、リネが暮らしてた場所。今はもう殆ど瓦礫に埋まってるけど」
儚く笑った彼が廃墟を見つめながら言葉を呟いた。…やっぱりそうか。此処がセルシア達の暮らしていた場所だったんだ。
リネが少しだけ驚いた顔をしながらも、廃墟の建物の中に足を踏み入れる。それを傍に居たロアとマロンが追いかけた。一人にするのは危ないと
思ったんだろう。

「…中で待ってて」
「何処に行くの?」
直ぐ様アシュリーが彼に問う。…彼女の問いに儚い笑顔を絶やす事無く彼は言葉を投げた。

「確認したい事はまだ有るんだ。近い場所だし、一人で行けるから…」

…違う。一人で行けるんじゃない。一人で‘行きたい’場所なんだ。きっと。
それを悟ったアシュリーとレインもリネ達を追いかけて中に入っていった。
2人が無言で立ち去るのを見たセルシアが無言で踵を返し、歩き出そうとする。…一瞬だけ迷ったが一歩踏み出し彼の腕を掴んで止めた。
「あたしも行く」
リネとは確かに仲直りしたけれど、セルシアが何をするか分からない。
念の為、って言ったら余りにも失礼だけどもとりあえずセルシアを独りにするのも危険な気がした。
それにまだBLACK SHINEが潜んでいる可能性だって有るんだし。

「……分かった。じゃあ、着いてきて」
気持ちを察してくれたのか、セルシアがそう言って廃墟の更に奥を目指して歩き出した。その隣を無言で歩く。
…セルシアは何処に向かっているんだろう。彼の言う‘まだ確認したい事’って…なんだ??
色々考えて、やがてはっとなる。
……分かった。セルシアが向かっている場所は、きっと。



――リトの墓。じゃないだろうか…。



やがて彼は廃墟の奥の奥で足を止めた。彼らの家から2、3分歩いた場所にある――小さな墓場。
案の定感が当たっていた。彼は立ち並ぶ墓石の中から一つの墓石を指差した。
「そこがリトの墓」
彼はそう言って墓場に近付く。その場に膝を着いたセルシアがリトの墓に向かって強く手を合わせ目を閉じた。
…これが独りで来たかった理由か。何か悪い事をしてしまった気がする。
そう思い少し離れた場所で待機しようとして――。

「……ちょ、セルシア??」

彼がとんでもない事をし始めた。墓石に手を合わせるのを止め、有ろう事か彼の墓石を退けて土の中を掘り始める。…半ば墓荒しっぽいけど、セル
シアは何がしたいんだ??さっぱり分からない。
しかも一向に土を掘るのをやめない彼を見て何だか心配になってきた。本気でセルシアは何がしたいんだ?
「何してんの??」
問い掛けると土を掘り返しながらセルシアが呟く。
「――知りたいんだろ?ノエルの言ってた‘リトの屍’って言う意味」
…いや。それ、回答になってないぞ??
彼の趣旨がさっぱり分からないが、とりあえずリトの墓を調べる事でノエルの言葉の意味が分かるって事なのだろうか。
よく分からないままセルシアの行動を見つめていると、やがて彼の手が止まる。
セルシアはそのまま土の周りを彫って――地面の中から遺骨の入れられている筈である壷を取り出した。

「セルシア。流石にそれは墓荒し並みのアレよ??」

「…ちゃんとリトには謝った」

だからさっき手を合わせていたのか…。って、そういう問題じゃない。だからって遺骨を出すのは流石に拙いんじゃ――??
声を出して止める前に彼は紐を解いて壷の蓋に手を掛けた。「止めなさいよ」の「や」を言ったところで彼が壷の蓋を開く。
蓋を拓いた瞬間。――セルシアの顔が曇った。…何か合ったのか?
壷の中を覗き込む。暗い闇が広がっていた。けれどそれだけだ。他に何も無い。

…あれ??
でも直ぐに違和感に気付いた。壷の中には何も無い。――そう、リトの遺骨も。


「…セルシア?これってどういう意味??」

問い掛けるが彼は無言で壷の蓋を閉め、元合った様に紐を結び土の中に戻した。
壷を地面に戻し、墓石を立て直してから彼が大きな溜息を吐く。


「――俺の仮説。…出来るなら、間違っていて欲しかった………」

「…合ってたの??」

「……ああ。今の見て確定した。――ノエルの言葉の意味は俺の仮説で合ってたんだ」

じゃあその仮説を早く聞かせなさいよ。そう言おうとした所で―――。




『きゃぁああっ!!!』


「――?!」

2人で顔を見合わせて、廃墟の街を見回した。冷や汗を握り締める。…今の……マロンの声じゃ…??

「…何か、合ったのか……??」

「わかんない。けど…」

早く戻った方が良いのは確かだ。きっと5人の身に何か合ったに違いない。
立ち上がりその場を走り出した。セルシアが一瞬リトの墓の方を振り返り、墓石に向かってもう一度少しだけ手を合わせる。
それから彼もまた自分を追いかけ走り出した。セルシアの方は男だから直ぐに追いついて来る。
「先行って!」
「分かった!!」
声を掛けるとセルシアが一目散に廃墟の中を走り出す。それを追いかけ自分も走り続けた。一体マロン達に何が合ったんだ?――まさかとは思う
けど、あのモンスター達に嵌められた??此処に来てから一気に総攻撃とかするつもりだったのか??
けれど術の光とかは一切見えない。戦っている訳では無さそうだ。…じゃあ、一体??
とにかく早く戻らないと。既に遠くに居るセルシアを追いかけ只管走った。
唯彼も除々に走るペースが遅くなってきている。最初に全力疾走したんだろう。何とか追いついて最終的には2人でマロン達の待機している場所
に到達する。
――目の前に居たのは白骨化した人間の骨で動き回る骸骨だった。スケルトン、っていう奴だろうか。
その少し遠くに囲まれているリネ達が見える。…術でもぶっ放せば良いのに、何か合ったのか??
とりあえず危害を加えられる前に剣を抜いてスケルトンに切り掛かる。細い骨なだけあって簡単に地面に崩れ落ちた。
セルシアの方もリネ達の前に居るスケルトンを2つの戦輪で蹴散らし、彼等の傍にやって来る。
――こんなにあっさりと倒せたのに、なんでリネ達は反抗しなかったんだ?その辺が理解できない。
とりあえず全てのスケルトンを倒してセルシアとリネ達の方に戻った。

リネの傍に立ち、改めてなんでスケルトンを倒さなかったのか聞こうとして―――。

「……イヴっちとセルシア…なんか悪いもんでも食ったの…??」

真っ先にレインによく分からない質問をされた。よく見ると5人が5人呆然と此方を見ている。
「悪い物何か食べてないわよ。ってか何でモンスター倒さなかった訳?あんなの簡単に倒せたじゃない」
とりあえず聞きたい事を問い掛けると、悲鳴の張本人であろうマロンが此方を驚きの目で見上げながら声を投げる。
――その言葉に今度はこっちが呆然となった。

「私達の攻撃は、一切利かなかったの」
「……は??」

「あのね。あたし達だって簡単にやられる程馬鹿じゃないわよ。あんたの思ってる通り術だって何回かあの骸骨に当てたわ。
けどね、攻撃は利かなかった。直ぐに再生してくるのよ」

……リネの言葉でさっきのレインの問いの意味が分かった。
つまり今のスケルトン。自分とセルシアの攻撃‘以外’が利かないんだ。
――けれど何でリネ達の術や攻撃は利かないのに自分とセルシアの攻撃だけ通用したんだ??別にレインの言った通り悪い物を食べた何て事
は無いし、セルシアと2人で行動した時にやった事なんてリトの墓を見てきただけだし…。特別な事は何もしていない筈―――…。

……と思って、ふと思い出した。
ヘレンが言っていた言葉――‘ネメシスの石が、グローバルグレイスで役に立つ’っていう、あれ。
彼が驚きの声を上げるのも無視して無理矢理コートを捲った。コートの下に隠れてしまっている腕輪-黒のネメシス-を確認する。



…やっぱり、そうだ。

セルシアの所持している腕輪-黒のネメシス-と、ネオンから借りた今はあたしが持ってる指輪-青のネメシス-が薄くだが光っていた。
もしかしてネメシスの石がスケルトンの自己再生能力を弱くした??――そういえば幽霊船の一番最深部で寄生虫本体と戦った時もネメシスの石
が寄生虫の自己再生能力を止めた気がする。
この石ってもしかして不死身の敵とかを倒すのに使えるのか??
未だに自分達はどういう状況になるとネメシスの石が反応し自分達に力を貸してくれているのかが分からない。
けれど一つ言えるのは、今スケルトンを倒した時にも無意識の内にネメシスの石の力を使っていたこと。



「…もしかして、ネメシスの石が有ったからスケルトンに攻撃が利いた、とか?」
察したロアが声を投げてくる。
「多分そうだと思う。また石同士が反応してるし」
隠す必要も無いと思うので素直に肯定した。直ぐにセルシアも黒のネメシスと青のネメシスを見比べて、少しだけ頷く。
リネの方に寄ろうとセルシアの傍を離れると、石が完璧に光を無くした。――やっぱり石同士が共鳴し合っているのか。もう一度セルシアに近付く
と青のネメシスが再び輝き始める。この現状はラグレライト洞窟前でも見た。

「石の事はとりあえず置いておくとしてもよ、…確認したい事は確認してきたんだろ?セルシア。
――そろそろ真実教えてくんね?一人だけ分かったってのもズルいと俺は思うんだけどなー」

そんな中でレインがセルシアに声を投げた。…そうだ。確認したい事はちゃんと確認したんだっけ。‘リトの墓’の下に埋まっている‘遺骨の壷’を見
て、彼は仮説を確定へ導いたみたいだけど……アレを見て一体何が分かるんだろう??さっぱり分からない。
少しだけ深呼吸したセルシアが、今度はちゃんと前を向いた。
彼自身も、もう決意は出来ているみたいだ。最初から話す気で居てくれたのは間違いない。
「分かった。じゃあちょっと長くなるかもしれないけど話すよ。――ノエルが言ってた‘リト・アーテルムの屍’の意味」
ほんの数秒だけ目を閉じた彼が、思い出を語る様に声を出した。
それは全ての真実に繋がる筈のキーワードの一つ。

「BLACK SHINEに居るリトにそっくりなアイツは一番簡単に説明するなら‘リトの屍’。…何度も言ってる言葉だけどこの言葉が一番正しいと思う」
彼の瞳に躊躇いはない。それは全てを本気で語ろうとする目。
いちいち言葉を挟んでしまっては彼の説明の邪魔になると思う。だから今回は静かに聞く事にした。

「10年前のあの日――俺が黒のネメシスを持ち去って、リトは赤のネメシスを持ち去った。
それから街に帰った俺達は2人の‘罪の証’として、1つずつネメシスの石を持っている事にしたんだ。
――何時かリネが自分達から自立出来たら、2人でもう一度返しに行こう。そう約束して。
……だから俺は今でも黒のネメシスを持ってる。…これが俺の罪の証そのものだから」

――そうか。リネが自立したらいずれ2人はネメシスの石を返しに行くつもりだったんだ。
でもそれもそうだよな。…元はと言えばリネの為にネメシスの石を盗みに行った訳だし、リネを独りにはさせたくないからネメシスの石は返しにいけ
なかった。けれど何時か返しに行って2人で謝る気は有った。有ったけれど、運命はそれを待ってくれなかったんだ。
だから9年前。大事件とも呼べるあの惨劇が起きて――この街、‘グローバルグレイス’が滅びる事になった。そして全てを焦がす炎はリトの命さえ
も奪っていった。生き残りは多分、リネとセルシアの2人だけ。

「…少し話が変わるけれど、ネメシスの石にはそれぞれ特有の‘能力’が備わっているんだ。
例えば俺の持ってる黒のネメシス-ダーク・ドゥーバ-。これは全ての物を混沌へ‘還す’能力が有る。
イヴが今持ってる青のネメシス-アクア・ドゥートゥ-はあらゆる物の‘浄化’能力。
白と緑の効果は分からないけれど、赤のネメシスの効果は―――」

其処まで言ってセルシアが少しだけ躊躇う。拓かれていた瞳が瞬きしてからゆっくりと閉じた。
…にしても、ネメシスの石一つ一つにそんな大きな力が備わっている何て知らなかった。
セルシアが話してくれなかったらきっと一生知る事も無かったと思う。改めてセルシアに感謝した。
だから彼の言葉を待つ。――急かす事はしなかった。セルシアの決心が付いたら話せばいい。あたし達はそれまでずっと待ってる。
全員が全員彼の行動を待つ中。深く深呼吸を繰り返したセルシアが再び閉じた瞳を開いた。


「…ごめん、続けるよ」
もう一度深く呼吸をしてから、再びセルシアが声を上げる。

「赤のネメシスの特殊能力…って言えばいいのかな。石に備わっていた能力は―――全ての‘再生’なんだ」

――全ての‘再生’。
既にネタが分かったのかレインとアシュリーが閃いた顔をした。
アシュリーが賢いのは元からだけど…レインも意外と賢いのか?何か既に展開が読めた顔をしている。


「此処からは俺の仮説だけど。
…ノエル達は9年前、俺がリトの遺体を墓に供養してからリトの墓を掘り起こしたんだと思う。
そしてリト本人の遺骨と、赤のネメシスを使う事によって――――」

「……記憶の無い‘新しいリト’を生き返らせた」

「…多分。そうじゃないかな。壷の中に赤のネメシスも埋めた筈だったんだけど…それも無くなってたし」

そう言ってセルシアが儚く笑った。
…だから墓に行った時、リトの遺骨が納められた壷を掘り出したのか。全てはこの仮定を事実か如何か確認する為。


「赤のネメシスは死んだ人間の‘再生’も出来るの?」
そんな中アシュリーが彼に問い掛ける。少しだけ悩んだ顔を見せたセルシアがやがて問いに答えた。
「その人の遺骨とか皮膚とか、…とにかく生き返らせたい人の‘体のパーツ’が一部分でも有れば多分出来ると思う」
「…人を生き還らせる力、ねえ……」
レインが意味深に呟き、遠くをぼんやりと見つめる。…何か言いたい事でも有るのか?
「何か言いたい事でも有るの?」
背中を叩いてレインに話しかけた。
男が振り返って少しだけ笑う。その笑顔が前までのセルシアにちょっと似てた。――自嘲を含んだ儚い笑顔。
「んー。……もし本当に人を生き還らせる事が出来るんなら…。……いや、やっぱ何でもない」
レインはそう言って何か聞く前に傍を離れてしまった。
…結局レインは何が言いたかったんだ?まあ本人がいいって言ってるから今はほおって置くか…。

とりあえずセルシアが今教えてくれた真実で、今までのリトへの疑惑は全て解決した。
リネの兄であるリト・アーテルムとそっくりなのはリトを元に造られた半ば‘クローン’的な存在だから。
リネとセルシアの事を覚えていないのは、一度死んでいるから。…って事になるのか??
もしかして赤のネメシスで復活した人間は、たとえ外見が全く一緒だとしても本人とは別の魂が宿ってしまうんじゃないだろうか。
それか生前の記憶を失くすとか?

……とりあえず結論だけ言うと今BLACK SHINEに居るのはリトで有ってリトでない人間と言う訳か。
心の何処かで「本当はリネの兄であるリトは生きてるんじゃないか」って期待してたけど…。…やっぱり世間はそんなに甘く出来てない、か。


「じゃあBLACK SHINEに居るリトは、リネのお兄さんでは無いって事…?」

マロンが彼に問い掛ける。彼女に目線を動かしたセルシアが微かに頷いた。

「確かにリトを‘ベース’にして復活させられた人間だけど、……俺達の事覚えてないだろ??
つまり、外見は一緒でも中身が全く違ってるって事だよ。精神の方のリトはもう完璧に死んでるんだ。還って来る筈が無い」

きっぱりと彼が言い放つ。だけど何処か辛そうだった。きっと思い出したくも無い記憶と仮説が頭の中を駆け巡っているのだろう。リネが静かにセル
シアの傍に寄って、彼の手を少しだけ握る。…その動作に刹那セルシアが驚いた顔をしたが直ぐに彼女に微笑んだ。
「有難う。リネ」
「……」
彼女は何も言わない。唯怒っている訳では無く唯恥ずかしがっているだけの様だ。この2人が仲直りして本当に良かった。
ほっとして、改めてセルシアと向き直った。
やっぱり全ての真実へのキーワードは、全部10年前か。
――もっと調べないといけないかもしれない。10年前の事件の事。この街を襲ったウルフドール族の事。そしてリトとセルシア、リネの事も。

そんな中遠くに居たレインがふと閃いた顔を見せる。

「ねえねえ。青のネメシスが‘浄化効果’ってセルシアさっき言ったよね?」
「へ?あー…。うん。言った」
突然のレインからの問いにやや躊躇いがちにだがセルシアが頷いた。
確かにセルシアはさっき、解説の中で‘青のネメシスはあらゆる物の浄化’と言った。
――其処まで来て自分もまたはっとなる。分かった。レインの言いたい事。

「青のネメシスでミツルギ神殿のグレミス水が浄化出来るんじゃ無い?!」
「そーそー!俺が言いたかったのはそれよ!流石イヴっち!!」
レインが無駄に黄色い声を上げて騒ぎ出す。閃いてくれた事には感謝するけどムカついたから一発殴って大人しくさせた。

「それなら地下に下水道が通ってる。…ミツルギ神殿の地下に流れてたグレミス水は、元々町の下の下水道から来てると思うよ」

セルシアが便上して声を上げる。
じゃあこの地下の水を浄化したらミツルギ神殿の水も浄化出来るって事か??――それって凄い楽だ。

「下水道は何処にあるんだ?」

ロアの問いにセルシアが少し悩んだ顔を見せてから答える。

「此処から少し離れた場所にある井戸の中。多分まだ崩れてないと思うから…とりあえず来て!」

彼はそう言って先頭を歩き出した。隣に居たリネがセルシアの手を思い切り振り放し離しつつも彼の隣をゆっくりと歩く。
何だかんだでリネはセルシアの事が好き何だろうな。ちょっとだけ笑って2人の姿を追いかけた。










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