色々考えていると何時の間にか朝を迎えていた。一睡もせずに見張り当番をしていたのは始めてな気がする。 夕べのヘレンの不可解な言葉と、レインの疑惑…。気になる事は沢山有るが多分今聞いてもレインにはぐらかされるだけだろう。また時期を見計ら って聞いてみるか。レイン自身も「何時か話す」とは言ってた訳だし。 そんな事を思いつつ早朝から道を歩いているとcorss*union本部までの船を出している港まで無事に到着する。 気が重たくて仕方ないのだが行かない訳にも行かず、ゆっくりと出航した船のブリッチで小さく溜息を吐いた。 *NO,81...分担* 「そういえば、データは直ったの?」 船が本部に着くまでは1〜2時間掛かる。その時間はどうしても暇なので砥石で剣を研ぎつつ、恐らく数時間しか寝てないであろうセルシアとリネ に問い掛けた。――結局レインは途中でリネとセルシアの傍を離れて大人しく寝に行ったみたいだ。26時ぐらいに3人が居た場所を見ると既にリ ネとセルシアしか居なかった。 眠たそうに瞼を擦りながらリネが呟く。 「全然駄目。削除されたフォルダにも残ってなかったし…」 「…多分直らないと思う」 リネの言葉にセルシアが付け足した。…じゃあVONOS DISEからデータを得るのは絶望的だな。結構期待していたんだけどと思いつつ溜息を吐く。 「まあ消えちゃった物はしょうがないんじゃない?どの道今から黒幕の所乗り込むんだから良いでしょ」 こんな時まで空気を読まないレインが、お気楽な声を出して言った。真っ先に隣に居たリネが足の甲を殴り、それに付け加えセルシアが軽くレイン をど突く。…昨晩遅くまで頑張っていた2人を散々邪魔した挙句、その言葉は余りにも酷いと思うぞ。自業自得だ。鼻で笑ってやった。 「…やっぱり行くしかないのかなぁ」 そんな中マロンが不安気味の声を上げる。 「cross*unionの事?」 問い掛けると彼女が首を上下させた。 …あたしだって正直気が重い。例え黒幕だったとしてもずっとお世話になっていた恩師とも呼べる人に牙を向く事になるのだ。辛いというよりは恩を 仇で返すみたいな感じで…正直申し訳無い。 そしてもしcorss*unionが白だったら最悪だ。信用が落ちる何て問題じゃない。人権に関わって来る。 「…まあ、こういう展開だけは避けたかったよなあ……」 同じくロアが呟いて項垂れる。そりゃあロアが一番気が進まないよな。cross*unionに居た頃はあたしと違って幹部だった訳だし。 「……止めておく?」 「…ううん。そういう訳には行かない…と思う」 アシュリーの言葉に首を横に振る。…行きたくないのはあたしもだし、マロンもロアも一緒だと思うけれど、BLACK SHINEの本部の場所を知る手が かりが今の所cross*union以外無いのだ。なら、行くしかない。あたし達はノエルとキースから白のネメシスと緑のネメシスを奪い返さないといけな いんだから。それは義務。 「じゃあ2班に分かれて行動しましょうよ」 そんな中セルシアの隣でレインを未だに軽く叩きながらリネが提案した。…レインの酷い言い草も問題だと思うが流石にそろそろ止めて置くべきじ ゃあ?と苦笑しつつリネの意見に耳を傾ける。 「‘捜索班’と‘和解班’。 …捜索班はメインコンピュータの管理室まで行ってBLACK SHINEの情報を探す。 で、和解班はcross*unionリーダーの所に行って事実を確認し、BLACK SHINE本部の場所を聞き出せるのなら聞き出す」 「…成る程ね」 確かにそれが最善の方法かもしれない。もし和解班が危険な目に合ったとしても後から捜索班が助けに来る事が出来るし、その逆も十分出来る。 戦力を分担するのはちょっと痛いかもしれないけれど、全員で乗り込んで全員で捕まるよりは幾分かマシだ。リネの言う通りパーティーを分断して 行くべきかもしれない。内部でどんな事が待ってるかも分からないし。 「俺はリネに賛成かな」 セルシアが声を上げる釣られてマロンとアシュリー、ロアが頷いた。 それから少し考えてからレインが頷く。 「イヴは?」 「あたしも賛成よ。全員で行って全員捕まったら話にならないしね」 とは言ったものの、どうやってパーティーを分断しようか。機械の情報操作等に長けているリネは確実に捜索班に入れるべきなのは分かっている が…。 まず自分とロアは絶対和解班だ。リーダーに会う為にはあたしかロアみたいな元所属の人か、セルシアみたいな偉いunionの副リーダーが忠清し ないと断られてしまうかもしれない。 となるとセルシアもこっちか?セルシアも結構機械操作慣れてるみたいだから出来れば捜索班に入れたいけれど…難しいところだ。 「レインとアシュリーはどっちが良い?」 マロンは多分あたし達に着いてくる。つまり和解班。 となると問題は2人がどちらを希望するかだ。人数調整もあるから2人の動きを見て決めないと。 「俺捜索班が良いー」 レインがそう言って両手を激しく振り上げる。…正直コイツが和解班に居ても邪魔なだけな気がするし、捜索班で良いな。うん。 それにリネが情報操作をしている間彼女を守る者と周りの様子を見る人間が必要なのだ。レインが居れば多分安心だろう。普段はふざけてる癖に 妙に戦闘の腕は長けてる訳だし。 「…じゃあ私も捜索班」 アシュリーが声を上げる。人数的にアシュリーがそっちに行ってくれると助かるし首を縦に振った。それにリネにアシュリーが居たならレインもそこま で馬鹿な事はしないだろう。多分。 「リネは捜索班で良い?」 「…ま、機械操作とか慣れてるしね。良いわよ」 何時の間にかレインを開放したリネが意図を読んでくれたのか口元を釣り上げて頷く。 まあ彼女も和解よりはそっちに向いてるだろうし、その方が楽なのかも知れない。 「マロンとロア、セルシアは和解班。…で良い?」 残る3人に問い掛けると3人も笑顔で頷いた。 …和解班に連れて行くのは一度はリーダーと顔合わせをした人間達ばかりだから、リーダーも其処まで警戒はしてこないだろう。 自分とロアは元cross*union所属だから謁見を希望してもきっと其処まで不思議がられる事は無い。マロンも何度かあたしが此処につれてきた事 が有るから2、3度顔合わせはしている。セルシアもcross*unionと友好関係に合ったVONOS DISEの副リーダーだったのだから、顔を合わせて書 類を渡したりとかはしていた筈だ。一度も合った事の無いレインやリネ、アシュリーを連れて行くよりは信頼性が高い。 「じゃあ決定ね。捜索班がレインとアシュリー、リネで、和解班があたしとマロン、ロア、セルシア」 「旨い事分けれたな」 「…あたしもそう思う」 ロアの言葉に思い切り頷いた。これは結構旨い分担だと思う。もし両方のチームで戦闘になったとしてもどちらにもちゃんと前衛と後衛が居るから 戦闘のバランスは取れるはずだ。捜索班には万能に動けるレインと補助術の使えるアシュリー、それと術に長けたリネが居るからまず心配は要ら ないだろう。こっちも中衛のセルシアと回復術に長けたマロン、前衛のあたしとロアが居るからバランスは十分取れている。 「じゃあ決まりね。正面から一緒に乗り込んで、内部に入ったら分かれて行動しましょ」 提案に全員が頷き、その中でリネが声を上げた。 「じゃあ情報掴んだら入り口まで戻ってくるわ」 「俺達も危なくなったら入り口まで逃げてくるって事にしよう」 セルシアの言葉にマロンと一緒に頷く、遅れてロアが頷いた。正直捜索班より和解班の方が危険の可能性が高いから、もし危ない気配になったら 真っ先に逃げよう。 「じゃああたし良い物持ってるわよ」 不意にリネがそう言ってポーチから小さなイアリングを取り出す。中央に黒丸の物体が取り付けられた少し特殊な形のイアリングだった。 「小型の通信機。真ん中のボタンで通信出来るわよ」 「…ホントに良い物持ってるわね、あんた」 リネからイアリング状の通信機を受け取り、耳に取り付ける。其処まで重くも無いし普通のイアリングの様に感じた。 ……成る程。これなら見た目はイアリングだから通信機だと疑われる可能性も少ない。…旨く考えてあるな。 「もう1つはあたしが付けておくから、何か合ったら連絡して」 「分かった。じゃあこれ借りるわよ」 通信手段が有ればかなり楽だ。もしピンチになったりしても直ぐに捜索班の彼女等を呼び出す事が出来る。 逆に3人が危険な目に合ってもこっちに連絡を入れてくれれば助けに行く事が出来るのだ。…こういう便利な物はもっと早く貸しなさいよ。 リネにそう言って見ると彼女が溜息交じりに答えた。 「リーダーからBLACK SHINEの情報聞いたときに貰ったから」 …ああ、成る程。貰ったのが最近だった訳か。納得して頷いた。 気付けば船はcross*union本部に着こうとしている。気付かなかったけれど大分話し込んでいたみたいだ。長いはずの1時間がかなり短く感じた。 綺麗に研げた剣を鞘に終い、砥石を鞄の奥に無理やり詰め込む。 とりあえず安全が第一なのは確かだけれど、第二に情報だ。BLACK SHINE本部の情報が此処で手に入れれないと本部の捜索がかなり困難にな ってしまう。何が何でも手がかりを見つけないと。 停留した船を下りて、軽く伸びをしてから本部に向け歩き出した――。 BACK MAIN NEXT |