cross*union本部前に着いてから船で決めた事を改めて確認した。
「あたしとロアとマロンとセルシアが和解班。リネとレインとアシュリーが捜索班。お互い危なくなったら通信機で連絡。
何か情報を掴んだら此処に戻ってくる。…問題無いわね?」
イヴの問いに対し6人が息を揃えて頷く。そんな中でリネがポケットからもう1つのイアリング状の通信機を取り出し、耳に嵌めた。…これでお互い
の通信はばっちりだ。もしどちらかが危険になっても助けに行く事が出来る。
一呼吸し、息を整えてから――本部への扉を開いた。


*NO,82...TRUE-真実-*


本部に入って直ぐ、リネ達3人は奥のメインコンピューター室に向かって歩き出した。本部内の色々な場所にフロア地図が有るから迷う事は多分な
いだろう。3人を見送ってから自分達もリーダーの私室に向かい歩き出す。
自分とロアが元は此処のunionだったし、マロンも何度か此処に遊びに来ている。セルシアもVONOS DISE副リーダーとして何度も此処に訪れたは
ずだから回りのunionの一員はリーダーの私室に向かうあたし達を特に何も疑わなかった。寧ろ時々声を掛けられる。久しぶりだな、とかそんな他
愛のない会話。
そんな会話をしながら歩き続ける内にリーダーの私室まで到達した。…してしまった。
お互い目を見合わせ沈黙する。気が重いのは此処に居る全員が同じ様だ。とは言っても今更自分達だけ引き返す事は出来ない。リネ達も今頃は
きっと頑張っている筈だ。そこを考えるとやっぱり乗り込むしかない。

「…行くわよ?」
3人に肯定の返事を貰ってから、扉をノックし、少しずつ慎重にドアを開けた。
大きな机の向こう側にある椅子に、男が一人。それは少し前まで自分もロアも見慣れていた筈の光景。
「……お久しぶりです、リーダー」
「…イヴ君にロア君じゃないか!!久しぶりだね」
席を立った男――cross*unionリーダーが嬉しそうに此方まで歩み寄ってきた。
…やっぱりこの人は疑いたくない。自分達の恩師とも呼べる存在。こんな良い人がBLACK SHINEと繋がってる何て到底思えなかった。やっぱりあ
れはノエル達の仕組んだ嘘何じゃないだろうか。
とりあえずリーダーに促され、扉を閉め席に座る。セルシアとマロンも自分とロアの隣に腰を下ろした。
「マロン君も久しぶりだね、元気にしていたかい?」
「…はい。お蔭様で」
軽く微笑んだマロンが、軽くリーダーと握手をする。そんな姿を見てやっぱり疑いたくないと思ってしまった。
なかなか話を切り出せず困ってると、セルシアが声を投げる。
「お久しぶりです、リーダー。…VONOS DISE副リーダーセルシアです」
「セルシア君も…久しぶりだね。本部の事件、聞いたよ。辛い物だっただろう。大丈夫かい?」
「…平気です。それよりも……本日はリーダーにお聞きしたい事が合って来ました」
どうやらなかなか言い出せないあたし達3人に代わって言ってくれるみたいだ。
…セルシアってこういう時は凄く頼りになるよな。彼の方を少しだけ見て、心の中でお礼を呟いた。
「聞きたいこと?何だい?」
不思議そうな顔をした男が此方に問い掛けてくる。…セルシアも少し眉間に皺を寄せた。やっぱり彼も言い出したくは無いよな。貴方はBLACK 
SHINEと繋がってるんですか。なんてとんでもない事。
それでも唇を噛み締めたセルシアが、一呼吸置いて口を開く。



「cross*unionがBLACK SHINEと繋がっているという情報を聞きました。…それについて、貴方から真相をお聞きしたい」

…言った。今、セルシアが確かに言い切った。
場に暫くの静寂が降りる。だがその静寂を男が破った。喉をくつくつと鳴らしながら問い掛けてくる。


「どこまで知ってる?」

……ちょっと待て。それって‘肯定’したって事??
やっぱりノエル達の言葉は真実だったのか。…疑いたくなかったから、ショックを受けた。

「もう、全部知ってます」

マロンが身を乗り出してリーダーに言葉を投げる。…あたしも何か言わないと。そう思ったけれど唇が動かなかった。
何も言えずに居る自分とロアに対し、セルシアが尚も男に言葉を投げる。

「大人しく認めたらどうですか?BLACK SHINE幹部‘キース・ロイドー’から証言は聞いて居ます。其方の策略だって分かって――」

「君達は本当に惜しい人材だ…。


――そうだ。BLACK SHINEを裏で操ってるのは私だよ」







……完璧に、肯定した。
ロアと目を見合わせて呆然としてしまった。もう嘘だと信じる事は出来ない。その優しい笑顔の下には裏が有った事を決定付けられた。
セルシアとマロンもお互いに目を見合わせ動揺の顔を浮かべている。やっぱり2人も余り信じていなかったみたいだ。いや…あたし達と一緒で信じ
たくなかったという所か。

「…詳しく説明して頂きたい」
頭を抱えながらセルシアが声を投げる。セルシアの声がやけに鮮明に聞こえた。
未ださっきの肯定の言葉が信じられない。この人は自分とロア、それもマロンにも本当に良くしてくれていた。頼れる人で、憧れ…だったのかもしれ
ない。セルシアがVONOS DISEリーダーを失った悲しみが何となく分かってしまった気がした。

「説明も何も…という感じだな。リコリスとフェンネルが居るだろう?少なくともあの2人は私の部下だ」
…此処まで聞いてしまうと、これは現実何だなと思えてしまう。
あの2人の事を知っていた時点でもうこの人は黒だ。本当にcross*unionは黒幕だった。
「……此処で働く人間の何割がこの事を知らないんですか」
マロンが男を真っ直ぐ見つめて問い掛ける。
セルシアもマロンも切り替わりが早くて羨ましい。自分とロアは未だ目の前の状況に呆然とするしか無かった。
「7割…かな。BLACK SHINEを介して此処に働く人間が3割居るんだけれどね、その3割ぐらいしかこの事は知らないよ」
…成る程。表上此方で働き、裏ではBLANCK SHINEに所属しているというパターンがあると言う事か。
リコリスとフェンネルがきっとそうなのだろう。だから2人はリーダーの部下なのだ。
少なくともあたしとロアは正規入団だったから、この事を知らなかったのは納得できる。
「…VONOS DISE本部を滅ぼす様命令したのは貴方?」
恐らくセルシアが一番聞きたかったであろうその言葉に、男がまた喉を鳴らす。
「それは違うな。VONOS DISEを壊滅させる様命令したのは上のお方だ」
「…つまりBLACK SHINEリーダー?」
立ち直ったのか、開き直ったのか…何にせよやっと向き合う決意をしたロアが声を投げた。
「そうだね。つまりそうなるよ」
「…誰なの。BLACK SHINEリーダーって」
あたしも何時までも俯いているばかりじゃ駄目だ。そう思い質問をしてみる。
とりあえず其処は知りたかった。ネメシスの石を集め夢喰いの復活を企み、ノエル達の行動を指示し、そしてVONOS DISEを壊滅させる様命を下し
た人間の名前―――。それをあたし達には知る必要がある。本部に乗り込むあたし達としては。

「…残念だがそれは教える事が出来ないね。リーダーの事は絶対的な秘密だ」
案の定否定の言葉が返って来る。簡単に教えてくれるとは思っていなかったから別にどうとも思わないけれど…。如何にかして聞き出さないと。
次の言葉を選んでいる内に、男がまた口を開く。


「―――まあ、君達の直ぐ傍に居る事は確実だね」



……今、何て??




4人が4人、硬直してしまった。
あたし達の直ぐ傍に居る。…BLACK SHINEリーダーが。


「っ――誰なの?!そのリーダーって!!」


不意にヘレンの言葉を思い出した。
‘償いの人間’と‘憎しみの人間’…。それはつまり‘cross*unionリーダー’と‘BLACK SHINEリーダー’の事??
それなら2人の人間があたし達を狙っていると言うのが理解できる。そうだ。多分そういう事なのだ。…多分だけれど。

「言ったろう、イヴ君。それは教える事が出来ない。と」

首を横に振った男が真剣な瞳をして此方を見る。…やっぱり口を割る気は無いか。何にせよヘレンの言葉の意味、何となく理解した。
どっちが償い人間なのか、どっちが憎しみの人間なのか、それはよく分からないけれど――とにかくこの2人が‘牙を向く者’だ。
そしてヘレンの言う通り――‘牙を向く者’は傍に居る。それはたった今cross*unionリーダーによって肯定された。

くそう、誰なんだ。誰がBLACK SHINEリーダー何だ??
直ぐ傍、って事は一番疑わしいのはパーティー内だ。ロアとマロンは違うと信じたい。…というか6人の誰の事も出来れば疑いたくない。
酷いとは思うが今の段階で一番疑わしいのはレインとセルシア。それとリネ。
レインは妙に過去の事を隠している。それが少し疑わしい。
セルシアもセルシアで10年前と9年前の事件が原因で豹変してしまった事だって否定できない。
リネは情報操作に長けている。裏で誰かを操るなら彼女が一番有り得そうだ。
逆に言うと、多分アシュリーとマロンは違う。…アシュリーはノエル達に散々追い回されてたし、夢喰いを復活させるのには彼女と言う‘生贄’が必
要になって来る。BLACK SHINEリーダーが生贄に使われるとは考え難い。
マロンは体が弱いって事も有るけれど…ずっとあたしの傍に居たからまず間違いなく有り得ないと思う。彼女が一番疑わしい行動をしていない。嘘
もそんなに吐かないし正直者だ。…一番考え難いのがマロンだろう。
ロアが微妙な所だ。マロンと同じく一緒に居た時間が長いからBLACK SHINEリーダーというのは有り得ないと思うけれど……。


「…イヴ」

「……分かってる。あたしだって誰も疑いたくないわよ」

考えが顔に出てしまったのか、ロアが少し険しい顔をした。
あたしだって誰も疑いたくない。けれどBLACK SHINEリーダーと繋がっているこの男が確かに宣言したのだ。‘直ぐ近くに居る’と。
だったら一番疑わしいのはパーティー内じゃないか。信じたくないのはあたしだって一緒だけれど、信じたくないという身勝手な思いだけでBLACK 
SHINEリーダーかもしれない人間を野放しにはしておけない。…暫くはパーティーの行動をしっかり見ておくべきかも。
疑わしい人間を絞るならやっぱりレインとセルシア、リネの3人だ。
この3人はよく独りになりたがる。独りになった所で色々な指示を出していた事だって十分有り得えてしまう。
…3人共悪い人間じゃないと思っていたし、これからもそう思いたいから疑いたく何か無い。
けれど信じていたcross*unionリーダーがこうして豹変しているのだ。3人がこの男と同じ様に豹変したって可笑しくない…。
……3人を更に絞るなら、最も怪しいのはセルシア――。
何度かパーティーを外れているし、VONOS DISEの重要なデータのパスワードを知っているのは彼だけ…。

……本当は彼が自分でデータを消したんじゃないだろうか。VONOS DISEの重要な情報が入ったあのデータを。
それなら何も残っていなかった事だって納得できる。…あんまり納得したくないけれど。



「質問は以上かね?」
男の問い掛けに4人が4人沈黙する。…隣に居るセルシアを少しだけ見上げた。今まで何度も助けられたし、10年前の事件も包み隠さず話してく
れた彼の顔は、やっぱり凛としていてとても裏が有るように思えない。
だから‘リネを護りたいだけ’と言う彼の意思を。…彼がBLACK SHINEリーダーじゃない事を、信じたい。

沈黙していると男が立ち上がり、机の傍まで戻った。…話は終わりと言う事か。とりあえず一度入り口に戻ろう。話はリネ達と合流してからだ…。
そう思い椅子を立ち上がろうとした所で―――行き成り扉のドアが開く。
無意識の内に体が痙攣し、扉をの方を見た。
目の前には何人かのunionの人間が居る。……武器を構えて。


「…どういうつもり?」
「唯で帰れると思ったかね?」

問い掛けると男に質問で返される。…そりゃあ、唯で帰れる訳無いよな。うん。
直ぐに反撃しようとしたが人数が人数だ。向こうの数が多すぎる。隙や死角を突かれ捕まってしまった。


「暫くは牢屋に居て貰うよ」

その言葉を聞いて直ぐ――後頭部を殴られ、気絶してしまった。










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