本部に入って直ぐ、イヴ達とは別行動の為3人で分かれ道を歩き出した。
イヴとロア曰く、本部の至る所に本部の地図が有るから間違っても迷う事は無いだろう。という事らしい。確かに色々な角に本部の地図が張られて
いた。それを覗き込むと、やっぱりメインコンピュータ室は一番奥の様だ。結構遠いな…。と思いつつ地図を頭に叩き込んで歩き出す。
「ねえリネっちー、近道とかないのぉー?」
…にしても本当にこいつは緊張感の欠片も無い。ムカついたから足の脛を思い切り蹴った。


*NO,83...SECRET-秘密-*


痛みに悶絶するレインの傍、苦笑を浮かべるアシュリーが此方に問い掛けてくる。
「メインコンピュータ室、確か一番奥だったわね」
「そうね…。…向こうが和解を終わらせる前に到達出来れば良いけれど」
アシュリーの言葉に答えつつ、レインを無視して廊下を歩き続ける。メインコンピュータ室までの道はほぼ一直線だ。人通りも少ないので多少疑問
の目は向けられる物の声を掛けられる事なく楽に進むことが出来る。万が一何の用だと聞かれたらセルシアかロアの名前を出して通り抜けよう。
事実2人は此処に来ているんだから多分問題ないわよね。…多分。
「ちょ、リネっちぃー!!置いてかないでよー!!」
足を抑えたレインが痛みにひーひー言いながらも後ろを着いて来る。ああもうウザい。もう一度蹴ってやろうかと思ったがこれ以上歩く速度を落とし
ても困るので仕方なく拳で我慢しておいた。
苦笑を浮かべたままのアシュリーが次のフロア地図を発見したのでそれを再び覗き込む。…大丈夫、道は間違っていない。この先にある階段を下
りれば後はメインコンピュータ室まで一直線だ。その一直線の間にunionの一員の誰かとすれ違わなければ良いんだけど…。
突き当たりの扉を開け、慎重に階段を下りる。どうやら痛みは引いたみたいでレインも普通に歩いていた。
手加減してやったんだから感謝しなさいよと思いレインを鼻で笑うと彼が苦笑を浮かべる。
無事に階段を下りた所で、薄暗い地下の廊下をひたすら真っ直ぐ歩いた。
此処からは本当に一直線だ。曲がり角も分かれ道も無い一本道。そしてその先にメインコンピュータ室が有る。
にしてもこの薄暗さがちょっと怖い。…照明、もうちょっと明るくしておきなさいよ。溜息を吐いて歩き続けると、

「わっ!!」
急にレインに背中を押され、大声を出された。
「きゃぁっ!!!」
何が起きたのかと後ろを振り返る。…レインがにやにやと笑っていた。

「リネっちかわいー!やっぱりこういう所嫌い??」
…どうやらレインが驚かせてきただけみたいだ。甲高い悲鳴を上げてしまった自分を恥ずかしく思いながら力強く思い切りレインを蹴った。
それでも足りずに足を上げて思い切り膝に踵落しを食らわせる。再び痛みに悶絶し始めたレインを今度こそ放置してアシュリーと2人で廊下を歩き
出した。

「…ほっといて良いの?」
「あんな奴ほおっておくのが当たり前よ」
今のは流石にレインが悪いというのをアシュリーも分かっているらしく、彼女が軽く頷く。
レインを置いて廊下を歩き続ける事数分。…やっとメインコンピュータ室の前まで辿り着いた。
唯、やっぱり入り口の扉に鍵が掛けてある。ドアノブの左上にカードキーを通すような場所が合った。…カードキー式か。パスワード式なら無理矢理
メインコンピュータに入ってパスワードを盗んで来る事が出来たんだけれどカードキーだとそれが出来ない。さて、どうしようか…。
困っているとアシュリーが肩を叩いてくる。
「私の術で何とかなるかもしれない」
「…本当に?じゃあお願い」
リネの言葉に頷いたアシュリーが、一歩後ろに下がりぽつりと詠唱を始める。
…アシュリーがこっちに来てくれて本当に良かった。多分彼女が居なかったらメインコンピュータまで辿り着けなかっただろう。正直言ってあたし達
が今やってる事は不法侵入に値するんだけれど、BLACK SHINEの本部を探す為と腹を括るしかない。

「――cancellation」
やがて彼女が言霊を吐いたと同時。カードキーのボタンが勝手に認証を始め、そして扉のロックが外れる音が響いた。…開いた!!
ドアノブに手を掛け、ゆっくりとノブを回すとドアはあっさりと開いてしまった。中を少し覗くと部屋の内部には幾つかの機械が並んでいる。…此処で
間違いない。

「ありがとう!」

アシュリーにお礼を言って中に入る。彼女も慌てて追いかけてきた。

「お。部屋のロック開いたの?流石天才美少女2人組」
そんな中やっと痛みから立ち直ったらしいレインがひょっこりと顔を覗かせる。…天才美少女2人組って何よ。今からもう一度殴って永眠させてやろ
うかと思ったがこれ以上あいつに構っているとタイムロスになる。殴るのは情報を調べてからにしよう。
とりあえず一番大きな機械に近付き、セキュリティを外す作業に入った。
この手のロックなら簡単に外せそうだ。外部からセキュリティを外すウイルスを持ち込んで無理矢理それを読み込ませればこの手のセキュリティは
簡単に外れてしまう。

案の定少しの操作でロックは簡単に解除出来た。
無事にメインコンピュータのデータ管理部分にアクセスする事が出来、とりあえず一段楽する。
少し深呼吸をしてから再び画面を見つめ直した。
欲しいデータはBLACK SHINEの本部の場所だ。
それ以外の情報は特に興味も無いので個人名簿等の場所はすっとばしてデータの回覧を続ける。
…とは言ったものの、本部の場所なんて簡単に見つかりっこ無いよな。絶対に何らかの手を使って情報を隠している筈だ。
とにかく手当たり次第情報を引き出してみようと思い色々な情報にアクセスしてみる。
ほとんどのセキュリティはさっき外したから普通にデータが回覧出来る筈なのだが…1つだけセキュリティの外れてないデータが合った。…もしかし
てコレか??
直ぐにパスワード画面に移してセキュリティを壊すパッチを当ててみる。
……弾かれた。殆どのセキュリティはこれで潜れる筈なのに、パッチごと弾かれてしまった。

間違いない。このデータだ。このデータの中にきっとBLACK SHINE関連の情報が保存されてる筈!!

手当たり次第思いつくパスワードを入れるが勿論引っかかる筈も無い。さて、どうしようか…。
この中にBLACK SHINEのデータが入っているのは多分確定だ。ウイルスで壊せなかったって事は相当強力なセキュリティを使ってるって事だし、
そんなにセキュリティを強化して保存するデータなんてBLACK SHINEの事しか有り得ない。

「どう?見つかった?」

レインが画面を覗き込んできた。鬱陶しいと思いつつも回答してやる。

「まだ」
「その奥にBLACK SHINEのデータが入ってんの?」
「…多分ね。て言うか邪魔だから話し掛けないで。集中力途切れる」
「……へいへい」

了承したレインがつまらなさそうに画面から離れた。邪魔な奴が居なくなった所で改めてパスワードについて考えてみる。
セキュリティを破壊出来るのが一番楽何だけれど…どうもそうにはいかないらしい。そりゃあ厳重に保管されているだろうから破壊出来ないのは当
たり前だけど。
ならパスワードを解くしかないけれど…パスワードがよく分からない。どうしよう、どうすれば良い?
時間は少ない。誰かに悟られる前に、そしてイヴ達和解班が事を済ませる前に作業を終わらせないといけない。
パスワードをハッキングやクラッキングすると言う手もあるけれど…それらには時間が掛かる。とても間に合わない。

「手詰まりなら俺がやるよー」
額に手を当て悩んでいると、再び近付いてきたレインがまた声を掛けて来た。
…コイツに任せて大丈夫なのか??心配で仕方ないが手詰まりなのは図星なので仕方なくレインと場所を変わり、アシュリーの傍に寄る。
「…大丈夫?」
「大丈夫よ」
アシュリーに問われ軽く頷いて返した。大丈夫な事は確かなのだが…とりあえず頭が疲れを訴えてる。難しい事を考えすぎたかな。
レインの方を見ると彼はあたしと同じ事を考えたみたいでウイルスパッチを当てたりハッキングをしたりしていた。…って、ハッキングってかなり時間
掛かるのよ。大丈夫なんでしょうね??
忠告しようとレインの肩を叩いたと同時。彼が振り返り、親指を立てて笑う。
意味が分からずに画面を見ると―――。


「…嘘、でしょ」



――パスワードが、外されてた。
目の前の画面には、BLACK SHINEの情報についてがかなりの量で書き込まれているのが分かる。
呆然としたままその場を動けなかった。まさかレインがあの厳重なセキュリティロックを外せるなんて思わなかった。…イヴが前に言ってたけれど、
確かにレインはあらゆる事に対応出来る‘万能型’なのかもしれない……。

「あんた…どうやってセキュリティ解除したの?!」

詰め寄ると苦笑を浮かべたレインが声を掛ける。

「落ち着いてよリネっち。ハッキングしただけだって。割と直ぐ終わったみたいよ?」

…ハッキングしたのは分かるけど、そんなに短時間で終わる物なのか?
何か他に特別な操作でもしない限りこんな早くハッキングが終わるなんて考えられない……。
何かしたんじゃないのかと問い掛けようと思ったがそれより今はやる事を優先しないと。レインと場所を変わってもう一度画面と向き合った。
データ内で本部の場所を検索する。

…引っかかった。画面上に世界地図が映し出され、そしてBLACK SHINE本部の場所が点滅で記される。



「……そりゃ、見つからない筈だわ」

点滅先の場所を見て思わず苦笑してしまった。そんなリネの姿を見たレインとアシュリーもまた画面を覗き込んで――成る程と首を縦に振る。

「…BLACK SHINEも良く考えたわね」
「気付かなくて当たり前だよなぁ。こんな場所絶対見つかる筈ねぇし」

本当だ。こんな場所見つけれる訳が無い。BLACK SHINEもよく考えたものだ。
とにかく本部の場所は調べられた。後は入り口まで無事に帰るだけ。
ウイルスを解除し、セキュリティを元に戻してから踵を返した。


…そう。BLACK SHINEの本部が見つかる筈、無いわよ。
其れは地下にある訳では無く、孤島に隠されているのでも無く、地図に載っていない場所に有る訳でもない――。





――空、だ。




cross*unionのほぼ真上。遥か上空の彼方に‘BLACK SHINE本部’は浮いている。
引き出したデータには確かにそう記されていた。





不意にイアリング式の通信機が電波を受信したような音を鳴らしだした。もしかしてイヴ達からの連絡だろうか。通信ボタンを押してみる。

「もしもし?」

『――リネ?』

やっぱりイヴだ。小型のスピーカーから彼女の声が聞こえてきた。

「ええ、あたしよ。そっちはどう?和解終わったの?」

問い掛けると罰の悪そうな声でイヴが答える。

『和解は終わったんだけれど……』

「…何か合った?」


『……捕まった、っぽい。ごめん』


――項垂れた声でイヴが告げた。










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