昨日は結局自室で色々と何かを考えている内にベッドで眠ってしまっていた。…起きたら朝だったのには本気で驚愕した。 とりあえず皆に会いに行こうと部屋を出ると、リネの自室でレインとリネの声が聞こえる。 …何か合ったのか?それともまた何時ものくだらない喧嘩だろうか。 ノックをして部屋に入ると、やっぱり部屋にはレインとリネが居てリネがレインを暴行…というよりは掴み掛かって只管何かを問い詰めていた。 「何してんのよ」 レインを今にも殴りそうなリネに問い詰めると、頬を膨らませた彼女が此方を素早く向いて、レインを指差しつつ答える。 「コイツ!!あの小難しい書物を1日で解読したのよ?!1日で!! どういう事よっ!!何か裏技使ったんでしょ!!あたしにも教えなさい!!」 …ああ、そういう事か。なんか納得して苦笑してしまった。 *NO,93...Go To The Sky!!* て事はつまりマロンに掛けられたあの術の解呪方法を習得したって事か? リネとレインを引き離して、床に寝転んで疲れた表情をしているレインに問い掛ける。 「マロンの術の解呪法、分かったの?」 「一応ね」 レインが苦笑して問いに答える。心の中で軽く溜息を吐いた。 ……そりゃあリネだって驚いてレインの事問い詰める訳だ。 あの訳の分からない無駄に難しい回復術の本を1日で解読し、理解した訳だしな。 リネとしてもやっぱりそういう読み取る‘能力’が羨ましいんだろう。だから朝からレインを問い詰めてたって事か。 とりあえず今だレインに対して威嚇しているリネを宥めて、一旦他の4人を呼びに部屋を出た。 アシュリーとマロンがまだ寝てたけど2人は比較的寝相が良い方だから直ぐに起きてくれたし、セルシアとロアももう起床していたのでリネの自室 に召集する。リネの部屋に戻ってきた頃には最後に呼んだセルシア以外全員部屋に来ていた。少し遅れてからセルシアも部屋に現れる。 4人を招集した所で改めて話を切り出した。 「レインがあの書物の解読を終わらせた」 「…て事は、マロンの術も解呪出来る?」 直ぐに話を理解したセルシアが声を上げる。彼の言葉に3人もはっとなって顔を輝かせた。 レインの方を見てセルシアの問いに答えるよう軽く肘で突く。 苦笑したレインが溜息混じりに声を上げた。 「間違ってなければ、ね」 彼はそう言ってマロンの傍に寄る。…間違えてたら鼻で笑ってやると心で決めて2人の様子を見守った。 軽くマロンの肩に手を置いた彼がぼそぼそと小さな声で何かの呪文を唱えていく。 小さい声なので何の言葉なのかはいまいち聞き取れないが――術自体は上手く発動しているみたいで、彼とマロンの足元にうっすらと光り輝く魔 方陣が現れていた。その魔方陣はレインが詠唱を進める度に輝きを増していく。 不思議な光だった。七色に点滅していて――普通の回復術とは系統が違う事を感じる。 やがて彼が声を止めたと同時――マロンの体の周りで魔方陣が光り輝き、その光が彼女の中に溶けていった。 …成功したのか? 疑問に思っているとリネがマロンに自分の指を突き出した。…彼女の指先には小さな切り傷が有る。 「朝方、紙で切った。…マロンがこれ治せたらマロンに掛かってた封呪は解けたって事よね」 成る程。そういう確認の仕方か。 頷いたマロンがリネの指先を軽く握って――祈るように目を閉じた。 同時にリネの指先に小さな光が集まり、光が消える頃には傷跡も何処かに消えてしまう。 …今、使えたよな。回復魔術。 て事はレインの術はちゃんと成功したんだ。マロンに掛けられていた術――‘Sear’が、やっと解けた。 マロンが喜んだ声を上げて、レインに何度も頭を下げた。微妙に苦笑しているレインがそれを何度も宥める。 「あんた、やっぱり凄いのね」 「…そう?」 軽く肩を突いてレインにそう言うと相変わらず苦笑を浮かべたままのレインが声を上げた。 「でも良かった。マロンの術が解けたならこれで――」 アシュリーが言葉を投げる。 …そう、よね。マロンの術は解けた訳だし、これでパーティーは一応全力を出せる様にはなった訳だ。 それなら行くしかない。決意が揺るいでしまう前に。 ――BLACK SHINE本部に。 傍に居るリネが一瞬だけ暗い顔を浮かべる。…誰だって行きたくは無いよな。あたしだってホントの事言うと行きたくない。みすみす死にに行く様な 物だ。本部は未だかつて誰も踏み込んだ事の無い場所。何が待ち受けているかなんてさっぱり分からない。 それでも行くしか無い事は分かっているから、軽くリネの肩を叩いて慰めてやった。 それから顔を上げてリネ以外の5人の顔を見る。…大丈夫、皆決意は出来てる。 「…覚悟は良いのね?」 念の為問い掛けた。最初にセルシアが微笑んで答える。 「とっくの昔から」 「…近い未来、こうなる事何て予想してたしな」 次いでロアが答え、彼等の言葉にマロンとアシュリーが頷く。 「そりゃあ俺だって覚悟ぐらい出来てるって」 レインが無邪気に笑って答えた。5人は大丈夫みたいだ。さて問題は隣で俯いているリネだけど…。 そう思い彼女の顔をもう一度覗き込んでみたが、彼女はもう平気そうな顔をしていた。 「あたしなら平気。――もう大丈夫」 強い瞳が決意を訴える。…リネもどうやら大丈夫みたいだ。 6人が大丈夫って言ってるんだから、行くしかない。 ――レグロスとネオンに会いに行き、お礼を言ってからSAINT ARTS本部を出た。 「…アシュリー」 ジブリールを呼び出せるのは今の所彼女だけだ。ポケットから笛を取り出した彼女が笛に唇を当て静かな音のオカリナを吹く。 ――微かに笛の音が聞こえる中。いきなり空に‘それ’は現れた。 大きな翼を羽ばたかせ、ジブリールが直ぐ傍の草原に足を付ける。 「…何処へ行く?」 返答に、一瞬言葉が詰まった。一度だけ深呼吸をして――きっぱりと言い放つ。 「BLACK SHINE本部」 「……承知した」 羽を下ろしながら龍が脳裏に響く声を謡った。地面に下りた羽を蔦って再び背中の上に乗る。 全員が龍の背中に飛び乗った所で翼を羽ばたかせたジブリールが大空に向かって大きく羽ばたき出した―――。 * * * 何分翼の上で空を見ていたのだろう。 数分間ジブリールの背中の上でじっとしていると――やがて空の上に浮かぶ黒い建物を発見した。 感で分かる。有れがBLACK SHINE本部だ。…多分、間違い無い。 ジブリールが其処に近付き、目の前に扉の有るエントランスの様な広い場所で足を突く。再び翼を蔦って空中の上の地面に下りた。 ――どうやら強大な魔術の力で浮かんでいるみたいだ。あたし達やジブリールが足を付けたが建物が落ちる気配は無い。 少しだけ下を見ると下には幾つかの雲が浮かんでいた。…相当高い場所の様だ。直ぐに見るのを止めて建物と見つめ合う。 全員が背中から下りた所でジブリールがまた空の彼方へ飛んで行ってしまった。 …もう後戻りは出来ない訳だ。 大きく息を吸い込んで、建物の入り口の様な扉にゆっくりと近付く。 考えてたってしょうがない。あたし達にはもう先に進むしか無いんだから。 扉の前でもう一度深呼吸をして――扉を思い切り開いた。 …どうやらホールか何かの様だ。 ドーム状の大きな天井を持つ入り口の部屋は静寂に支配されている。 ロアとマロンが足を踏み入れ、他の4人も後を追ってホールへ足を踏み入れた。 途端に誰も触れていなかった筈の扉が音を立てて閉まる。 …こっちの行動はお見通しとでも言いたい訳か。じゃあ顔でも見せたらどうだと心の中で悪態を吐く。 とにかく目的はノエル達との接触だ。そして必ず2つのネメシスの石を取り返す。 それだけ済ませたら早々と此処を立ち去ろう。今BLACK SHINEリーダーと対峙する気は無い。 …まだ時期が早いと思う。多分今のあたし達じゃリーダーと対峙するのは無理だ。 長い事この大型悪事unionを束ねてきたリーダーはきっと格段と強い。 ――最も、そのリーダーがあたし達の傍に居るみたいだけども。 ……此処に止まっていてもしょうがない。足を前に出しホールの奥へゆっくりと歩き出した。 釣られて他の6人も着いて来る。隣にロアがやって来て首をかしげた。 「…可笑しくないか?」 「……そう、ね」 向こうの事だ。絶対あたし達の行動ぐらい読んでいる筈。――此処に来る事だって分かっている筈なのに、何で誰も居ない? 強大な敵の1つや2つ位は覚悟していたのに。…どういう事だろうか?それとも何か仕掛けが有るのか?? 何にせよこの入り口となるホールに誰も敵が居ないのは可笑しい。まるであたし達を奥まで呼び寄せている様な……。 …とにかく、得体の知れない恐怖を感じる。敵が居ない事に逆に疑惑を抱いてしまった。 向こうがあたし達に気付いてない、って事は絶対無いだろう。入り口の扉が勝手に閉まったって事は何処かの誰かさんが意図的に魔術で扉を閉 めたって事だ。そんなふざけた事してくるなんて、明らかにこっちを挑発してる。 「……向こうが来いって言ってるんでしょ。進むしか無いじゃない」 少しだけ俯きがちに呟いたリネが奥に有る扉を指差す。…リネの言葉は最もだ。多分向こうは誘っているんだ。進んで来い、と。 だから敢えてこの入り口に敵を用意しなかった――。 …罠だって事は薄々気付いてる。けれど行くしかない。 一度だけ自分の頬を叩いて、弱音を無理矢理隠した。多分弱音を口に出したら負けだ。そんな気がする。 それから前を向いて再び足を踏み出す。 次の扉を開けると――また同じようなホールに着いた。 同じ場所をループさせられている? 一瞬そう考えたがそうでも無いらしい。ホールの奥には螺旋階段の様な物が見え、そしてその螺旋階段の少し上に―――。 「随分遅かったじゃない。やっと来たのね?」 ――ノエルが腕組をして此方を見ていた。 「…マロンに封呪掛けたくせに、よく言うわ」 苦笑しつつ鞘に手を掛ける。何時でも剣を抜ける様な体制になってノエルを睨んだ。 それは他の皆も一緒だ。それぞれの武器を取り出して何時でも攻撃出来る様に身構えている。 「悪いけどあんた達の相手はあたしじゃない」 …それ、どういう意味だ?もしかして何処かに誰か潜んでる? 慌てて周りを見回した――その瞬間。 「――デスアシッドライン」 闇属性の術を発動させる言霊。――‘それ’が確かに耳に聞こえた。 瞬時に敵襲だと気付くが行動が一瞬遅れる。 発動された術で体ごと吹っ飛ばされた。それは他の皆も一緒みたいで至近距離から行き成り発動された術に足を引き下がらせる。 今術を使ったの、誰だ?! 顔を上げて術の発動元の方角に剣を構えたが―――思わず呆然となってしまう。 「……やっぱり、貴方――」 アシュリーが呟いた。そう、彼女はこうなる事を予想していた…。 あたしも本当はこうなる事を何処かで予想していたけれど……――この推測だけは、間違っていて欲しかった!! 「――馴れ合いは此処までにしようぜ?イヴ」 あんな至近距離から気付かれずに術を撃つには、あたし達の直ぐ傍に最初から寄っていた事が条件だ。 だから――術を放ったのは絶対に絶対に間違いない。 ――レイン、だ。 色の無い目が此方をじっと見つめていた。 BACK MAIN NEXT |