塔の中に全員が入ったところで、扉は自然と閉じた。――心龍が意図的に開閉しているのだろう。会いたければ上に上って来い、って事か。 暗闇に目を鳴らそうと一歩足を踏み出すと、突然塔の中の灯篭が光りだす。驚いて思わず体を後ろに引いてしまった。 明るくなった塔の奥には、階段が見える。…あれが上行きの階段だと、出来れば信じたい。 「…行くか?」 「…行くしかないでしょ」 ロアの問いに頷き、奥の方に見える階段に向かって歩き出した。 *NO,114...ゲリオン・テリア* 階段の近くまで寄ってみる。…何の変哲もない階段だ。上行きなのも間違いない。 それでも警戒しつつ階段を上った。後ろをロア達が着いて来る。 長い螺旋階段を上り続け、やがて次のフロアに到達すると――――目の前に見えたのは、モンスターの大群だった。 大群の奥には、更に上に進む為の階段が見える。…この大群をくぐってあっち側の階段まで行けって事か。苦笑した。 「この大群を倒してけって事みたいよ?」 鞘から剣を抜きながら、少し遅れて上ってきたロア達に声を投げた。 魔物の群れを見た彼等もまた、一瞬絶句し――直ぐに武器を引き抜く。状況を理解したらしい。 「どうするんだ?」 「全部倒してたらキリが無いから、とにかく奥まで突き進む。良いわね?」 「…無茶苦茶だな」 苦笑したレインもまた槍を取り出して構える。――それが最善だと気付いてる様だ。 正直この魔物の群れを突っ切るのもあまり心地よく無いけれど、やるしか無い。奥まで行かないと次へは進めないのだから。 「ちゃんと着いて来なさいよ!!」 叫んだと同時、群れの中に突っ込む様に走り出した。 襲い掛かってきたグリフォンを剣で薙ぎ倒し、直ぐにやって来る別のモンスターをロアが双剣で攻撃する。 魔物の間に一瞬の隙が出来たその間にレインとセルシアが魔物の群れの中に走った。群れのほぼ中心となる場所で2人が腕を振り下ろす。 「――ブラックチェイン!!」 「ホーリーグランド!!」 2人の放った術が群れの殆どを傷付け、ある程度のモンスターを一層させる。 刹那階段までの道が拓け、その間を元の獣の姿となったアシュリーが、マロンとリネの2人を乗せて駆け抜けた。 道のりを邪魔するモンスターも出てくるが、アシュリーの方が速い。攻撃される前に奥まで突っ切った彼女が階段の前でマロンとリネの2人を下ろ して元の姿に戻った。 3人はこれで奥までたどり着けた。後はあたし達4人が向こうに辿り着くだけ。 背後から襲い掛かろうとする魔物に剣を振るい、空からの攻撃に魔段球を投げつける。 「イヴ!!」 双剣を振るったロアが此方を手招きした。敵が怯んだ隙に中央に居るレインとセルシア、そしてロアの方に走る。 「断罪を断ちし赤の女王――レソビューション!!」 「――バーストライボルト!!」 既に階段前へ辿り着いたマロンとリネが、敵の群れに向かって術を振るい落とす。 背後からの攻撃にモンスターが倒れた。再び一瞬の隙が出来、その間を4人で走り出す。 とは言え数は向こうの方が多い。遠くに居て攻撃を食らわなかった別のモンスターが前を塞ぎ襲い掛かってきた。 「ああもう!!――スノーグランクル!!」 先頭を走っていたレインが前に向かって術を落とす。空からの攻撃はレインの隣を走っていたセルシアが戦輪で叩き落した。 「――explosion」 極め付けにアシュリーが術を落とす。爆風に巻き込まれたモンスターが後退するのを見つつ爆風を駆け抜けどうにかリネ達の方まで到達した。 「上まで走れ!!」 休んでる場合ではない。気を抜いていたらまたモンスターが襲い掛かってくる。 レインの声に押され、階段を走って駆け上がる。 階段まで追ってくるモンスターに魔段球を投げつけた。倒せはしないだろうか目晦まし程度には成る筈だ。 最初にロアとアシュリーが上の階に到達して、扉を開けて中に飛び込んだ。 少し遅れていたマロンとリネの手を引っ張ったレインが次に到達して中に飛び込む。 残ったセルシアと後ろを振り返って、魔段球と戦輪を投げた。 階段を上って来ていたモンスターが怯んだ隙に扉の中に入り、戦輪がセルシアの手元に戻ってきたと同時に扉を閉める。 ――どうにか逃げ切れた様だ。腰を下ろして息を吐いた。一気に階段を駆け上がった所為か、かなり疲れた。 だがそれは6人も一緒みたいで、呼吸を整えつつ部屋を見回す。 …無音だ。この部屋にもきっと何か仕掛けが有るに違いないが、辺りは薄暗い灯篭が灯っているだけで他には何も無い。また奥に上行きの階段 が見えるだけ。 「…此処は何も無いって事か?」 「分かんない。でもそんな事無い気がする」 同じく床に座っていたリネが立ち上がり、辺りを見回しながら少しづつ歩き出す。 ――外で山犬と戦った時は直ぐにダウンしてしまったが、今はそうでも無いらしい。もしかしたら刻印が完成したのかもしれない。 不意に風を斬る様な音が聞こえ、彼女の直ぐ傍に黒い影が通るのが見えた。 「リネ!!」 咄嗟に走り出したセルシアが彼女の腕を引っ張り、同時に床に倒れ込む。 直後。リネの立っていた場所に何かが通り過ぎていった。――位置からして彼女の喉辺りだった。セルシアが動いてくれた事に本当に安堵する。 「…何か、居る」 同じく辺りを見回しながらアシュリーが呟いた。 リネを攻撃しようとした奴が、何処かに潜んでいる。それはあたし達も気付いていた。‘ソレ’を探して辺りを見回す。 ――不意にレインが目を細めてセルシアとリネの方を見る。 「ロア」 何かに気付いたのかレインがロアへ手を差し出した。彼の持ってる拳銃を貸せという意味なのだろう。ホルダーから銃を抜いたロアが彼の手に拳 銃を置く。受け取ったレインが直ぐ様リネとセルシアの方に拳銃を向け――2人の合間に拳銃を打ち込んだ。 銃弾の発砲される鮮やかな音が響き、同時に何かががたがたと慌しく動く音が聞こえる。 攻撃を受けた‘ソレ’が、ずるずるとセルシアとリネの後ろに姿を現した。 「――アレって」 そう。あたし達は‘これ’に見覚えが有る。 ずっと前。船に迷い込んだあたし達を窮地に立たせ、ネメシスの石の封印を解くキッカケとなったソレ―――。 「――要は俺達のトラウマを引き出してるって事だろ」 術を構えたレインが腕を振り上げ――振るい下ろした。 「――ブラックチェイン!!」 発動された術に、リネとセルシアが慌てて左右に身を投げる。 放たれた術を受けたソレが、一時は鎖に体を縛られていたが直ぐに鎖ごと破壊した。 …あたし達のトラウマを漁っている、か。レインの言葉は多分真意だ。 ライカが言ってた。‘心龍はあたし達の心を読む’って。 ――さっきの階のモンスターの大群は、アイティの丘の裏道を通った時に襲って来たモンスター達だったのだろう。敵の魔物にも何処か見覚えが 合ったし、グリフォンの数も多かったから多分間違いない。 そう。だから今回もあたし達の記憶を見てこのモンスターを造り上げた。多分そういう事だ。 目の前には気色な触手を蠢かせる魔物。――寄生虫が、立っていた。 幽霊船以来久しい姿だが、相変わらず気持ち悪さはどの魔物よりトップレベルだ。 確かにコレは正直トラウマになってた。倒しても倒せない苛立ちと焦り。そういう物がまだ胸の中に蟠りとして残ってる。 「コイツもさっきと一緒だ。隙を見て上の階段に行くぞ」 「……ん」 レインの言葉に少し遅れて頷く。…確かにそれが最善だろう。無理に倒す必要が無いという事も前のフロアで分かってるし、あたし達の記憶を忠実 に再現しているのならこのモンスターは多分不死身だ。 途端に蠢く触手が此方に襲い掛かってくる。咄嗟にロアが拳銃を撃ってくれたお陰で攻撃が此方に及ぶことは無かった。 「――冷血な監獄、汝を閉じ込め破壊する。フリーズドライヴ!!」 壁側に居たセルシアが寄生虫に向け術を放った。一瞬の隙の内にセルシアが向こう側に通り抜け様とするがその前に触手によって道をはばから れる。…さっき見たいにスムーズに通してはくれなさそうだ。 剣を抜いて本体に斬りかかろうと走り出した。途中襲い掛かってくる触手をリネとレインが術で一層してくれる。 振り上げた剣を寄生虫本体に叩き付けたが、攻撃が全く効いていなかった。背後から忍び寄ってきた触手に叩き付けられ、後ろまで引き戻され る。 「イヴっ!!」 「…平気」 傍に寄って来たマロンの手を借りて立ち上がった。 これ、本当に一筋縄じゃいかなさそうだな。どうしようかと考えてる間にもロアとアシュリーがその場を動き出す。 「――Insanity」 アシュリーが術を放ち、寄生虫を怯ませてる間にロアが寄生虫の触手を斬りつける。 其処からセルシアが戦輪を投げつけ、一瞬道を切り開いた。 「リネっ!!」 一番傍に居たリネに声を投げる。意を決した彼女が寄生虫の横を通り抜けようと走り出した。 勿論寄生虫だって黙っていない。傷ついてない他の触手が彼女の進路を隔てる。 「――ウィンディア!!」 そしてその触手をレインが薙ぎ倒した。――再び触手に隙が出来る。これなら、いける…! リネが触手の横を通り抜けるギリギリの所で回復した他の触手が彼女に襲い掛かる。 「アクエス!!」 それをリネ自身が葬って、その場を駆け抜けた。 彼女の姿が触手の山で見えなくなる。けれどその触手の山の先に、見える。――リネの姿が。 ――潜り、抜けた。 リネ一人だけだけど、どうにか触手の山を潜り抜けれた。此方に向けリネが唇を釣り上げて笑った。 一人通り抜けれたなら全員潜り抜けれる。多分だけど。 立ち上がりロア達の傍にマロンと一緒に走り寄った。 「どうにか全員潜り抜けるぞ」 「了解」 ロアの言葉に大きく頷く。 ――気性を荒くして襲い掛かってくる触手に、再び剣を向け薙ぎ倒した。 BACK MAIN NEXT |