「闇の声の旋律、御士へ手向けよ――ダークトラット!!」
「――ライティングウィンド」
セルシアとレインが術を放ち、其処からマロンが弓を射ってロアが双剣で攻撃する。
その隙にアシュリーとあたしがリネの方まで飛び込もうとする物の、流石にリネが潜り抜けた事も合って触手は厳重になっていた。隙が見いだせな
くてなかなか潜り抜けれない。
そしてこのやり取りが先ほどから何回も続いている。――術を撃ち続けているレインとセルシアもそろそろ疲れ時だ。リネやマロンも多少2人のサ
ポートをしているがそれじゃあ追いつかない。どうすれば効率良くこの触手の間を潜り抜けれるのだろう…。

不意に寄生虫本体の足元に、植物の根の様な物が見えた。
幽霊船の時もそうだったけど、寄生虫は根を張ってこの場所に存在している様だ。
――それを見て、頭の中で何かが閃いた。


*NO,115...褪め無き悪夢の序章曲*


「ねえ」
疲れた顔をしつつも次の術の準備をしているレインとセルシアに言葉を投げる。
「何だよ」
疲れている所為か如何にも不機嫌そうな声だ。振り返ったレインに声を上げた。

「アイツの弱点。見つけたかも」
「――え?」
同じく振り返ったセルシアが顔を驚かせた。だがそれは周りに居たマロン達も同じだ。
そんな彼等のリアクションを見つつ、幽霊船で戦った時点でこの事に気付けば良かったとちょっと後悔する。

「多分アイツ、植物みたいに根を張って此処に居るのよ。多分自己再生出来るのも根から栄養を吸ってるから」
「…根っこを引き抜けば、自己再生は止まる?」
「多分」
そうだと信じたい。というか、レインとセルシアが大分疲れてきてるからそれに賭けるしかないだろう。
溜息を吐いたレインが目線を地面――に微かに見える寄生虫の根に向けた。


「アレを攻撃すれば良いんだな?」
頷くと、一呼吸したレインが腕を振り上げ振るい下ろした。セルシアもその場から一歩下がって即座に詠唱を始める。
「――グリーディア!!」
「覚めた漆黒が笑う深遠の闇の声――ブラッティレール!!」
先にレインが術を放ち、後から追い掛ける様にセルシアが術を撃つ。
2人の放った術は寄生虫の張っている根に直撃した。
耳鳴りのする様な声を上げた触手が今まで有り得なかった動きをして苦しみだす。

――効いてる。僅かだけど、確かに攻撃は届いてる!!

「…どうやらイヴの言葉、当たりみたいだな」
唇を釣り上げたレインが再び術を振るい上げた。
その間にマロンとアシュリーが苦しんでいる触手の間を通り抜ける――難無く楽にリネの傍へ走り寄れた。
傍に寄ってきた2人から触手の弱点を聞いたリネが同じく腕を振るい下ろす。
「――ファイヤーボルト!!」
発動した術が触手の根を焦がすべく燃焼した。
除々に触手の動きが鈍く成っていく。振り絞った気力で此方に触手を向けてくるが、ロアと2人で剣で切り落とした。
ぼとりと触手が床に落ちる。――再生はしなかった。
自己再生の元が根だったのも当たりみたいだ。本当に幽霊船の時に気付きたかった。あの頃の注意力の足りなさに苦笑してしまう。
地面を揺らして倒れこんだ寄生虫が、暫くは痙攣する様に体を揺らしていたがやがて全く動かなくなった。
――念の為にとレインがロアから拳銃を借りて触手に発砲する。
撃たれた銃弾が寄生虫本体の体を貫通した。…寄生虫は全く動かない。

倒し、た。
肩の力が降りて床に座り込んでしまった。

「…よく気付いたな。アイツの弱点」
ロアが手を差し伸べながら問い掛けて来る。その手を握り返し、床から立ち上がりながら笑った。
「幽霊船の時から薄々気になってたのよ。アイツが地面に根を張ってる理由。
ま、出来れば幽霊船の時に気付くべきだったわね」

座り込んだ時に地面に落とした剣を拾い上げ、鞘に戻す。
それから触手の間を飛び越えて、リネ達の傍に寄った。

「お疲れ。よく気付いたわね」
リネに同じような言葉を言われて思わず苦笑する。
そのやり取りに安堵の溜息を吐いたレインが階段を見上げた。釣られて同じように階段を見上げてしまう。
――今どれくらいの高さまで上ったのだろう。まだ先は長いのだろうか。
弱点を見つけて倒せたのは良かったけど、正直体力の消費が激しい。セルシアとレインも大分疲れてるみたいだし…成るべく早く上まで上りたい。
けれど除々にトラウマのレベルが上がってきてる気がする。
この調子だと次はBLACK SHINE幹部の誰かか?一番有力候補なのはリトとノエルな気がする。

「…平気?」
――それでも進むしかないから進む訳だけど。
一番疲れてるであろう2人に問い掛けると、2人が微笑んで頷いた。
大丈夫って言うんだからその言葉を信じるしかないか。同じく微笑み返して階段を上る。
1階の時と同じ様に階段が螺旋階段になっていた。階段上るのにも気力使うんだよなと心の中で悪態を吐きながら長い階段を上がり続ける。

「リネはもう平気なの?」
途中、階段を上るリネが気になって問いかけた。
外で山犬と戦った時は不完全な刻印で術を打った所為で具合が悪くなったみたいだけど…今はもう大丈夫なのだろうか。
「平気よ。…刻印は完成しかけだったし、もしかしたら此処に来た時に完成しちゃったのかも」
リネがそう言って唇を釣り上げる。
刻印が完成した…と考えるのがやっぱり妥当なんだろうな。まあリネが大丈夫ならそれで良いか。
再び階段を上る事に集中し、終わりの見えない螺旋階段を上り続ける。
やがて漸く扉が見え、扉の前まで上りきってから一息吐いた。
下を見るとレインとマロンがやや遅めに上ってきている。マロンの方が疲れたんだろうな。急がせるのもアレなので扉の前で一番後ろに居るレイン
とマロンを待った。
セルシアとリネが次いで階段を上ってきて、それからロアとアシュリーが此処まで到達する。少し遅れて息を切らしたマロンとレインが到達した。

「大丈夫?」
「…うん、平気」
呼吸を整えながらマロンが微笑む。
…本当に平気なんでしょうね。疑心に思いながらも次の扉を開いた。


――暗い。
灯篭の明かりが全く無い、暗闇の広がる部屋が其処には合った。
用心しながら部屋の中に足を踏み入れる。明かりが無いとかなり不便だ。
レイン達も用心しながら部屋の中に足を踏み入れた。
暗くて自分の手すら見えない。リネか誰かが懐中電灯を持ってないだろうか。
「リネ、明かり持ってない?」
「…今試してるんだけど。付かないみたいよ」
リネから返って来た返答に溜息を吐く。…って事は此処は明かり禁止って事か。今度は何をさせる気なのだろうか。
…もしこの暗闇の中で戦えって言われたらかなり危ないと思う。敵だと思って攻撃したら味方でした。何て事になりかねない。
とりあえず止まっている訳にも行かないので少しずつ慎重に部屋の中を歩き出す。
視界が見えないってこれだけ怖い物だったんだなと、苦笑した。


…不意に後ろから何かが動く様な音が聞こえ、振り返る。
暗くて何も見えないけど、今。確かに音が聞こえた。

不思議に思い小首を傾げたと同時―――。

「きゃあっ!!」
――誰かの悲鳴が聞こえた。
リネだったのかマロンだったのかそれとも別の誰かか――。わからないけど、とにかく何か合った事だけは確かだ。
「リネ?!」
声がそれとなくリネっぽかったからリネの名前を呼ぶ。
…返答が、帰って来なかった。
どういう事?リネに何か合った??
近付こうとしたその瞬間、暗かった部屋に明かりが灯る。…灯篭がやっと光りだした。
けれど其処にリネの姿がない。――というか、あたし以外の誰も居ない。









…やられた。本気でそう思った。



思わず頭を抱える。心龍の目的がやっとわかった。
今から何をさせる気かは知らないけど、


此処からは一人で進め、って事だ。

…他の6人も、きっと今独りで居るんだと思う。



「……何させる気か知らないけど、相当すごい事してくれるじゃない」
ライカの言葉が何度もよぎる。…心龍はあたし達の心を読む、と。
多分此処から独りで行かせる理由は、あたし達1人1人の最大のトラウマが違うから、だろう。
1人1人の最大のトラウマを見せ付けて、それに勝てるかって事でしょ。多分。
溜息を吐きながら階段を見上げる。…奥に見える階段に向かって、一人歩き出した。










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