…呆然。
心龍の告げた冷淡な言葉に誰もが顔を引き攣らせ、個々に唖然とした様な何とも言えない顔を浮かべていた。
「…それは絶対?」
問い掛ければ、長い首を動かして心龍が肯定を促す様に首を上下に振る。
「嫌なら、それまでだ。世界は崩落する」


*NO,124...七つのネメシス*


…どっちにしろあたし達には‘死’という選択肢しか無い訳か。苦笑した。
夢喰いを封じるのに命を消費すれば当然あたし達は全員死ぬだろう。そう言うリスクだしな。
でもそれを嫌だと断れば、この世界は夢喰いによって崩壊し、消滅する。
あたし達もそれに巻き込まれて死んでいく訳だ。
それなら世界の為に死ぬ方がよっぽど良い気がするけど、判断は6人次第だ。
6人の内の誰かが反対したらそれまで。あたし達は手詰まりで、これ以上何も出来る事が無いまま。世界の崩落を見ていくだけ。
けれどあたしにはこの判断に反対する誰かを止める権限なんて無い。
どうせ死ぬんだったら、最期はちゃんとした場所で迎えたいっていう奴も中にはいるかもしれないし。最期に一緒に居たい人が居るのなら、きっと反
対するだろう。さて、6人はどうするんだろうか。

「あのね、イヴ。聞いてほしい事が有るの」
そんな中で声を上げたのはマロンだった。体を彼女の方に向ける。――他の5人も同じ様にマロンの方を見た。
「私はずっと臆病だった。自分に自信がなくて、全部見てるだけだったの」
――確かにマロンはパーティー内じゃ比較的内気な方だったけど、本人がそう思ってる何て全然気付けなかった。否定しようとすれば、意外にもレ
インから制止を掛けられる。
彼女の言葉は続いた。
「けれどそれは駄目だって事、気付いたよ。
…みんなに会えたからだよね。だから、ありがとう――」
「…マロン」
「私は、賛成だよ。イヴ」
彼女は最後にそう言ってやんわりと微笑んだ。
マロンの言葉に軽く頭を抱えたレインが、次いで唇を開く。
「じゃあ、俺からも。
俺はずっと逃げてた。目の前の事実、汚物と贓物の過去。そして―――俺自身から。
…ホントは今も今で一杯一杯だし、結構しんどいけどさ。
 ……けど、何でか前の俺に戻りたいとは思わねえんだわ」
「…レイン」
「俺も賛成だ。だから、お前の好きにしろよ」
レインはそう言うと手をひらひらと左右に振って微笑んだ。
「ちょっと、皆どうしちゃったのよ」
状況に着いていけず、声を投げれば立ち上がり、傍に寄って来たリネに肩を叩かれる。
「皆学習したって事よ。心龍…ううん、ロストからの‘最後の試練’で。
――という訳で。あたしからも、ひとつ」
唇を釣り上げ、何時もの元気な笑顔を見せたリネが、一旦目を伏せて静かに言葉を紡いだ。
「あたしはずっと迷ってた。言えない言葉も伝えれない気持ちも多かった。
けれど変わりたいとも思ってなかった。それがあたし何だとずっと思ってたから」
彼女はそう言って目を開く。…屈服の無い笑顔を浮かべて、リネは言葉を続けた。
「…あたしが変わるキッカケをくれたのは、あんた達よ?
だから。あたしも賛成。あんたの決めた事に、あたしは反対しない。それを受け入れる」
…変わる、切っ掛け……。
呆然としていれば、同じ様に傍に寄って来たセルシアが前に座って笑顔を見せる。
「俺からも良いかな。
俺はずっと諦めてた。何も変わる筈がない。過去なんて変えれない。
…そうやって何時も過去に囚われて、自分と、相手の全てを拒絶してた。
過去は確かに変えれないけれど、大切なのはそれからの未来――。教えてくれたのは、みんなだぜ。
だから俺も賛成。理由は皆と一緒」
彼もまた笑顔を見せる。
あんた達、ちょっと能天気過ぎない?世界を救う為とは言え、自分の命を掛けるのよ?少しは惜しんだって…。そう思っていれば次にアシュリーが
肩を叩いてきた。
「私も、ずっと絶望してた。
こんな広い世界じゃ、私一人が何を言ったって何も変わらないって、何もかも投げやりだった。
…自分から動かないと変えれないって事に気づけたのは、きっと皆のお蔭。
――私も賛成するわ。反対して、後悔するのはきっと明白だから」
……後悔。確かに、世界を救わずに放置していれば何れ後悔する日が来るかも知れない。
けれどやっぱりちょっとは躊躇しないのか?自身の命を削って夢喰いを封印するって事は、運が良くても悪くても死ぬって事なのに。
「そうだなあ…。俺もみんなと一緒。ずっと馬鹿だった。
大切なものも見抜けずに、自分を守るのが精一杯だった。
けれどお互いを支えあう事の大切さと嬉しさに気づいたんだ。…全部みんなのお陰だな」
そんな中で、肩を叩いてきたロアから声を掛けられる。
未だ呆然としていると、極めつけの一言を投げられた。




「思いきっちまえよ。俺たち全員、もうその覚悟で来てるんだ」



…皆、本当にそれで良いの?



「――主等の決意、しかと受け取った」
呆然とし続けていると、突如心龍に声を投げられ、振り返ったと同時に目の前に7つの光が飛んで来た。
「主等には私の体の一部――新たなる7つの心具を預ける」
目の前にやって来た7つの光の内の1つは目の前で7人のそれぞれの主体の武器の形となり、そして手の平の上に落ちた。
「名前を付けるとすれば…そうだな」
心龍は最初にアシュリーの持つロッド型の心具に目を向ける。
「それは‘救いのロッド’」
そして次にセルシアの方を見た。
「それは‘裁きのチャクラム’」
次いで、リネ。
「それは‘願いのナイフ’」
目を伏せた心龍が暫くしてから瞳を開き、そうしてレインの方に目をやった。
「それは‘弔いのランス’」
目線をずらした心龍が、瞳にマロンを映し出す。
「それは‘親愛のアーチェリー’」
その瞳はロアの方へとずれていった。
「それは‘導きのツインソード’」
そして最後に、あたしの方を見た心龍は目を伏せて一言。
「それは‘決意のソード’」
‘救い’‘裁き’‘願い’‘弔い’‘親愛’‘導き’‘決意’…。
これが新しい‘心具’。ネメシスの代わりとなるモノ。って訳か…。
掌の剣を握り締める。形は普通の剣と大差が無い様に見えてしまうが、きっと内なる力は莫大なモノだろう。何せ、心龍の体の一部を使って作られ
ているのだ。

「その武器が有れば、恐らく夢喰いと同等に戦う事が出来る。
但し、7つの心具に備わった封印の力は一度だけだ。そして主等の命も1つ。
失敗は許されない。…成功を、祈ってる」

目を開けた心龍が、瞳に映したのは後ろに居るロストだった。
それを見、立ち上がったロストが此方へ近寄って来る。
「入口まで貴方達を瞬間的にワープさせる事が出来ます。私の傍に集まって下さい」
…成程。ライカが居るであろう入口まで、送ってくれるって事か。
わざわざあの階段を下りていく必要も無いって事だ。ちょっとだけ安心した。
話を聞いた6人が傍に集まって来る。
7人全員が集まった所で、静かにロストが知らない言語を紡ぎ始めた。
その瞬間、足元に七芒星の陣が浮かび上がり、そして体が意識毎浮く様な感覚に襲われる。








          ・ ・ ・ ・ ・
「頑張ってね。イヴちゃん」

ロストの言葉を最後に、一瞬。意識が空へと飛んだ。
  









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